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バルデムの演技に泣ける『ビューティフル』

アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の新作は、絶望の中に希望の光を見出す1人の男の物語

2011年6月10日(金)16時08分
キャリン・ジェームズ(映画評論家)

最後の時 ウスバルは娘たちとの残された時間を懸命に生きる © Menageatroz S. de R.L. de C.V., Mod Producciones S.L., Ikiru Films S.L.

『バベル』『21グラム』などで知られるアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督とハビエル・バルデム(『それでも恋するバルセロナ』ではなく、『ノーカントリー』『海を飛ぶ夢』のバルデム)の組み合わせといえば、およそ楽しいものとは言いがたい。

 だが、2人のタッグが素晴らしい効果を生んだのが新作『BIUTIFUL ビューティフル』(6月25日日本公開)。情感豊かで、深く心を揺さぶられる作品に仕上がっている。

 バルデム演じる主人公ウスバルは、スペインの大都市バルセロナで日々を何とか生き延びている。薄汚れた裏通りで犯罪同然の仕事に手を染め、死んだばかりの者と交信できる能力を使ってちょっとした小遣い稼ぎをすることもある。

 彼は2人の小さな子供たちと狭いアパートに暮らし(原題の『Biutiful』は娘が書いたスペルミスから来ている)、躁鬱病で薬物中毒の元妻との縁も切れずにいる。それでもまだ苦難が足りないかのように、彼は末期の前立腺癌を宣告される。

 バルデムの演技は繊細で抑制が効いている。子供たちのために未来を模索しようとするウスバルの姿は胸が張り裂けそうなほど痛々しいが、それでいてまったく感傷的なところがない。

 イニャリトゥ監督といえばいくつもの物語が交差する展開でおなじみ。本作でも少し話にまとまりがない部分もみられた。それでも、人生の終わりという現実的で困難な問題と向き合う男の鮮烈な姿は、見る者の心に永遠に残るだろう。

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