最新記事

映画

何よりコワい女の友情

学園ホラーの『ジェニファーズ・ボディ』は意外にも心に響くブラックコメディーに仕上がった

2010年9月8日(水)14時29分
デーナ・スティーブンズ(脚本家)

恐怖の変身 セクシーなチアリーダーのジェニファー(フォックス)は男を食らう魔女に変わってしまう(10月8日にブルーレイ&DVD発売) ©2009 Twentieth Century Fox

 エロくて強烈、セクシーで不気味。やり過ぎ感もあるけれど、見るのをやめられない──これが『ジェニファーズ・ボディ』。監督カリン・クサマと脚本ディアブロ・コディの新作だ。

 ジェニファーの「ボディ」を演じるのは、『トランスフォーマー』シリーズでブレイクしたミーガン・フォックス。しかも脚本のコディはストリッパー出身という異色の経歴の持ち主。予告編には女同士のキスシーンと、先入観を持つ条件は十分にそろっている。

 でも、この映画は単なるお色気路線のホラーにならず、意外にも心に響くブラックコメディーに仕上がった。今年の公開作品の中でも純粋に楽しめる映画だ。

 ジェニファー・チェックはゴージャスなセクシー美女。ミネソタ州の田舎町にある高校のチアリーダーだ。アニータ"ニーディ"レスニキ(アマンダ・セイフライド)は幼なじみの親友だが、女王様のジェニファーにこき使われ、振り回されている。

 ある日2人はローショルダーというバンドが出演するクラブに出掛けていく。ところが火事が起きて大勢が死亡。2人は危うく助かるが、ジェニファーはバンドのメンバーに連れ去られてしまう。

 ニーディが親友の生きた姿を見たのはそれが最後。その夜遅く、血まみれのジェニファーがニーディの前に現れるが、もはや並みの人間ではなかった。

 男を餌食にする魔女に変わったジェニファーは、長い牙で男の肉を切り裂いては、素知らぬ顔でチアリーダーに戻るのだった。

引きちぎられたBFF

 コディは少女の妊娠を描いた『JUNO/ジュノ』の脚本でアカデミー賞を受賞した。ただし今回の作品を楽しむには、コディへの先入観を捨てなければならない。『JUNO』の心優しいまなざしを期待したら外される。舞台となる高校は恐怖の世界で、男子は次々に惨殺されていく(必ずしも女子をばかにした生徒ではなく、フェミニストの復讐話にしていないところがいい)。

 一方、『JUNO』が苦手という人も、この映画を敬遠しないほうがいい。コディの思い切りひねった若者言葉は健在だが、キャラクターが口にしたときの不自然さは薄らいでいる。

 ジェニファーは、たぶんコディが最も得意とするキャラクターだろう。仲間うちの隠語を使うのは自信がない証拠だし、セックス経験を誇っていても不安の塊だ。

 フォックスはこの難役をうまくこなしている。センセーショナルな容姿で観客を魅了するだけでなく、それを武器にして生きる娘の気持ちを表現した。

 フォックスはコディの脚本の狙いを理解したに違いない。ジェニファーは単に怪物に変身したティーンエージャーではない。あらゆる若い女性の心に潜む怪物を見せてくれる存在だ。

 内気なニーディを演じるセイフライド(『マンマ・ミーア!』)もはまり役。男を惨殺するジェニファーと、ボーイフレンドのチップと初めてセックスするニーディーが交互に映し出されるシーンは強い印象を残す。

 ニーディとチップは気の利いた言葉も交わさず、ぎこちなく初体験をする。カメラが一転して内臓をむさぼり食うジェニファーに切り替わると、観客はニーディがジェニファーを怖がると同時に羨んでいることを理解する。

 ニーディがジェニファーからチップを救おうとするクライマックスは、大胆だが上出来とは言い難い。それでもこの作品は、嫉妬と競争心、絆と裏切りに揺れる若い女性の友情をテーマにした巧みな寓話に仕上がっている。

 最後にニーディは、BFF(ベスト・フレンド・フォーエバー=永遠の親友)の証しとしてジェニファーが首に掛けていたおそろいのハート形のペンダントを引きちぎって捨てる。殺戮が繰り返される映画だが、このシーンが最高に怖い。

Slate.com特約)

[2010年8月11日号掲載]

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

バイデン大統領、対中関税を大幅引き上げ EVや半導

ワールド

再送-バイデン政権の対中関税引き上げ不十分、拡大す

ワールド

ジョージア議会、「スパイ法案」採択 大統領拒否権も

ビジネス

米ホーム・デポ、売上高が予想以上に減少 高額商品が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 2

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 3

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プーチンの危険なハルキウ攻勢

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ユーロビジョン決勝、イスラエル歌手の登場に生中継…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 10

    ロシア国営企業の「赤字が止まらない」...20%も買い…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中