最新記事

キャリア

今なお日本社会に巣くう「同期」という病魔

2018年8月27日(月)16時44分
松野 弘(千葉大学客員教授、現代社会総合研究所所長)

「同期の論理」は派閥の発想に他ならない

しかし、このような同期意識と学歴主義が結合していくと組織の活力を奪うことになる。なぜならば、特定の集団が支配力を握ることになるからだ。言い換えると、この同期グループから排除されると出世コースからはずれることになるからだ。

つまり「同期の論理」とは、①「同期」から社長(官僚組織の場合は事務次官)もしくは役員(同じく局長クラス)を出す ②「同期」はその人たちをバックアップする ③「同期」は相互に助け合う――という「派閥」の発想なのである。

現在でも、若手サラリーマンの中に同期意識は存在している。毎年、同期会を開いて、情報交換し出世を争うのである。大企業になればなるほど、この傾向が強い。個人主義的な意識が強いといわれている若者にも「ムレ」(群れ)意識が根強いのは、日本人が農耕型社会の共同体的な意識から抜けきれていないせいかもしれない。

こう考えると、「同期」あるいは「同期意識」の思想は、日本社会固有の共同体的集団主義を基盤とした「派閥意識」といってもよいだろう。

同期意識は日本企業の経済復興期、高度経済成長期には、日本的集団主義の中核的な要素として大きな役割を果たしてきた。

しかしそれは、自分が出世コースからはずれても、同期のトップグループが出世すれば救済してくれるという意識を醸成することになり、企業内に派閥を形成する元凶になるばかりか、会社全体の社員のモラール(勤労意欲)をもそぐことになる。

欧米企業に「同期」という横並び意識はない

欧米の企業の人材採用は新卒一括採用方式ではなく、ポストに空きができた場合に、必要な人材を採用するという能力主義だ。新卒の大学生といえども、その職務に適合した実力がないと採用されることはない。

この背景には、欧米の企業は日本のように、企業を経営者と社員の運命共同体として捉えていないことがある。トーナメント方式で実力のある者が勝ち上がっていくシステムなのである。

さらに、欧米の企業で成功した事例をみると、ハイブリッドな価値観(異文化的な価値観)を持った多様な人材を、能力主義という形での「競争原理」で抜擢している。

「同期」という組織上の横並び意識や日本的集団主義という旧来の経営システムを捨て去らなければ、日本の企業はグローバルな企業間競争からますます淘汰されていくことになるだろう。

[筆者]
松野 弘
博士(人間科学)。千葉大学客員教授。早稲田大学スポーツビジネス研究所・スポーツCSR研究会会長。大学未来総合研究所所長、現代社会総合研究所所長。日本大学文理学部教授、大学院総合社会情報研究科教授、千葉大学大学院人文社会科学研究科教授、千葉商科大学人間社会学部教授を歴任。『現代社会論』『現代環境思想論』(以上、ミネルヴァ書房)、『大学教授の資格』(NTT出版)、『環境思想とは何か』(ちくま新書)、『大学生のための知的勉強術』(講談社現代新書)など著作多数。

ニューズウィーク日本版 豪ワーホリ残酷物語
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月9日号(9月2日発売)は「豪ワーホリ残酷物語」特集。円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代――オーストラリアで搾取される若者のリアル

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

FRB理事候補ミラン氏、政権からの利下げ圧力を否定

ワールド

ウクライナ安全保証、26カ国が部隊派遣確約 米国の

ビジネス

米ISM非製造業指数、8月は52.0に上昇 雇用は

ビジネス

米新規失業保険申請、予想以上に増加 労働市場の軟化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 2
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害」でも健康長寿な「100歳超えの人々」の秘密
  • 3
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 4
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 7
    世論が望まぬ「石破おろし」で盛り上がる自民党...次…
  • 8
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 9
    SNSで拡散されたトランプ死亡説、本人は完全否定する…
  • 10
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 7
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中