日本初、核融合電力の売買契約...高市政権支援、実用化に向けた動きが活発化
写真は高市早苗首相。11月25日、東京で撮影。REUTERS/Issei Kato
中堅小売りのアオキスーパーが今月、日本初となる核融合電力の売買契約を締結して注目を集めている。発電は国内新興のヘリカルフュージョンが担い、2030年代からの供給開始を計画する。核融合は発電時に二酸化炭素(CO2)が発生せず、1グラムの燃料で石油8トン分に相当するエネルギーを得られるとされる。
ウクライナ戦争に伴う資源価格の高騰や人工知能(AI)の普及による消費電力の拡大を背景に、高市早苗政権が「国家戦略技術」に位置付けるなど、実用化に向けた動きが活発化している。
気候変動が深刻化すれば、食料品の安定調達に支障が出かねないー。アオキスーパーの河野正幸常務は、脱炭素電源である核融合発電に関心を持った理由をこう話す。同社は1941年の創業で、愛知県内に食品スーパー約50店を展開する。店舗の冷暖房や冷蔵・冷凍設備の運用に消費電力が多くなりがちな点も課題として認識しており、今年7月にヘリカル社に出資。今回の契約は話題作りの側面もあるようだ。
タッグを組むヘリカル社は自然科学研究機構・核融合科学研究所の学者らが2021年に設立した会社で、「ヘリカル型」の核融合炉の開発を進めている。らせん構造のコイルを用いて強力な磁場を作り、その内部を1億度を超える高温状態にすることで核融合を起こす仕組みだ。
核融合は「地上の太陽」と呼ばれ、原子の核同士を衝突させた時に膨大なエネルギーが生じる。海水に含まれる重水素などを用いるため燃料調達が容易で、核分裂の連鎖反応のような暴走は起きにくく安全性も高いとされる。まだ世界で誰も商用化に成功していない段階だが、すでに海外では、グーグルが米マサチューセッツ工科大学発のコモンウェルス・フュージョン・システムズ、マイクロソフトが米ヘリオン・エナジーと核融合電力の売買契約を結んでいる。
ヘリオン社はオープンAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)やソフトバンクグループが出資しており、今夏から発電所の建設に着手。28年の供給開始を想定しているという。
AIデータセンター、電力需要が急増
米テック大手が核融合発電に期待を寄せるのは、脱炭素化の推進に加えて、電力需給の見通しに強い懸念を抱いているためだ。AIの利用が急速に広がる中、ノルウェーのリスクマネジメント会社DNVはAI向けデータセンターの電力需要は、30年に足元の約10倍に達する可能性があると予測する。
東京都内で先週開かれた半導体の国際展示会「セミコン・ジャパン」では、甘利明・前衆院議員(半導体戦略推進議員連盟名誉会長)が基調講演で「いま世界が直面している課題は、生成AI向けデータセンターの電力消費だ」と指摘し、供給不足に警鐘を鳴らした。東京エレクトロンの河合利樹社長は「再生可能エネルギーの導入が追いつかず、データセンター稼働に伴うCO2の排出量は大幅に増える恐れがある」と話した。
もっとも核融合発電は技術的な壁が高く、これまで実用化の見通し時期は幾度となく先延ばしにされてきた。今回のブームについても「同じことの繰り返し」と慎重にみる向きもある。
とはいえ資源輸入国の日本にとってエネルギー自給率の向上につながるほか、関連技術の海外輸出に発展する潜在性を秘める。高市首相は科学技術政策担当相だった昨年7月、国として2030年代の発電実証を目指すと発表。政権発足後は半導体やバイオなどと並んで核融合を国家戦略技術に挙げ、25年度の補正予算では研究開発に約1000億円を計上した。
主要国が共同で参加する国際熱核融合実験炉(ITER)の建設計画が予定より遅れていることもあり、日本だけでなく各国が独自の開発に力を入れている。英国が計5000億円の投資計画を決定したほか、中国は年間2000億円規模を投じているとみられ、今年に入り四川省で大規模な核融合施設を建設していると報じられた。
みずほ銀行産業調査部の荒井周午氏は「日本は(ヘリカル型以外にも)裾野の広い核融合研究の基盤を有しているほか、原子力産業で培った大型プラントの建設能力や素材産業における強みを持つ」として有望性を評価する一方、「世界的な開発競争が加速する中で、日本が存在感を示すには継続的な投資が必要になる」との見方を示した。
(小川悠介 編集:橋本浩)
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