マイクロソフトもグーグルもシャネルも――ビジネス界を席巻する「インド系CEO」旋風【note限定公開記事】
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LEOLINTANG/GETTY IMAGES
<フォーチュン500で11社以上。インド系CEOが世界のトップ企業で台頭----教育×移民×多文化マネジメントで読む>
▼目次
1.「フォーチュン500」が示すインド系リーダーの伸長
2.難関校→エリート→トップ――インド系CEO躍進のロジック
3.インドで車を運転できれば、世界中どこででも運転できる
4.多様性を動かすリーダーシップ
5.次なる潮流は、インド発ユニコーンの時代
1.「フォーチュン500」が示すインド系リーダーの伸長
「その昔、インド人はアメリカでCEOなれないとよく言われたものだ」と、エリック・ガルセッティ駐インド米大使(当時)は昨年春、現地メディアのインタビューで語った。
「それが今は、インド人でなければアメリカでCEOなれないというジョークがあるくらいだ」
実際、インド系経営者の成功には目を見張るものがある。
マイクロソフト(Microsoft)ではサティア・ナデラ、グーグル(Google)ではスンダー・ピチャイ、シャネル(Chanel)ではリーナ・ナイール、フェデックス(FedEx)ではラジ・スブラマニアムがCEOの職に就いている。
昨年夏までは、スターバックス(Starbucks)でもラクスマン・ナラシムハンがCEOの座にあった。
最新版の「フォーチュン500」にランクインしている500社の大企業のうち11社でインド系の人物がCEOを務めている。
ラマニ・アイアーがハートフォード(Hartford)のCEO就任し、フォーチュン500企業で初めてのインド系CEOとなったのは1997年。
その後、2006年にはインドラ・ヌーイがペプシコ(PepsiCo)のCEOなり、「フォーチュン100」企業で初のインド系女性CEOなった。
10年にアジャイ・バンガがマスターカード(Mastercard)のCEO就任する頃には、インド系経営者が世界的大企業のトップに立つケースは珍しくなくなっていた(バンガは23年に世界銀行の総裁に転身)。
これまでインド系経営者の成功の理由について語られる際は、おおむね文化的背景や個人の理念に終始してきた。
22年にインドの有力ビジネス系放送局CNBC-TV18が開催したシンポジウムでは、著名なインド人経営者たちがそれぞれの見方を披露した。
例えば、ピユシュ・グプタ(DBS銀行CEO、当時)は、ハングリー精神と適応力と粘り強さを、プレム・ワトサ(フェアファックス・ファイナンシャルCEO)は、民主主義的な価値観と一族の伝統を理由として挙げた。
本誌は、成功の理由をもっと客観的に解明したいと考えた。そこで、多くのインタビュー調査に加えて、コンサルティング会社ghスマートのデータを利用することにした。
同社は、CEOの座に就く人たちが備えている特性、いわば「CEOゲノム」を割り出すために、地域と業種の垣根を越えて3万人のCEOや最高幹部の調査を実施している。
本誌の分析によると、インド系経営者の台頭は、歴史を通じて4つの段階をたどってきた。
グローバル化の初期には、インド出身者がテクノロジー面の能力を強みに、文化的障壁を乗り越えて頭角を現していった。
その後、新しいテクノロジーの登場により、企業で従来のやり方が通用しなくなると、インド出身者のカオスに対処する能力がものをいい始めた。
やがて、世界の大企業がグローバルなマネジメント手腕を重視し始めると、インド出身者のオペレーション能力の高さが武器になった。
そして、インド国内のビジネス環境が成熟すると、インドを拠点に選ぶインド出身者が目立ち始めた。
2.難関校→エリート→トップ――インド系CEO躍進のロジック
ラジ・グプタがアメリカにやって来たのは69年のこと。
コーネル大学(Cornell University)でオペレーションズ・リサーチの修士号を取得することが目的だった。渡米前にグプタは、インド工科大学ムンバイ校(IIT Bombay)で機械工学の学士号を取得していた。
当時のアメリカでは、65年の移民法改正により、高い技能を持つ移民への門戸が開かれたことに加えて、産業界はテクノロジーに精通した人材を切実に必要としていた。
インドの教育システムは、過酷な競争を通じて、そうした人材を続々と送り出していた。
VMウェアのCEOを務めたラグー・ラグラムはこう述べている。「エンジニアか医師になる以外は論外という雰囲気があった」。インド工科大学は、入学試験の合格率が0.5~2%という狭き門だった。
ハイデラバード・パブリックスクール(Hyderabad Public School)のような名門私立校の存在も大きい。
卒業生にはマイクロソフトのナデラ、アドビ(Adobe)のシャンタヌ・ナラヤン、元マスターカードのバンガ、フェアファックス・ファイナンシャル(Fairfax Financial)のワトサらが名を連ねる。
グプタは71年に化学大手ローム・アンド・ハースに加わり、40年近く在籍した。同社で働き始めた初期に指摘されたのは、慎重なコミュニケーションスタイルが原因で、自信なさげな印象を持たれているという点だった。
ghスマートの調査によると、こうしたコミュニケーション面の試練は、アメリカ企業で多くのインド人が経験するものだ。
グプタにとって大きな転換点になったのは、「上に立つのは白人だ」という発想を頭から振り払うよう助言されたことだった。
それを機に直接的にものを言うようになり、対立を避けず、難しい決定を下せる企業幹部へと変貌を遂げていった。グプタは99年に同社の会長兼CEO就任し、09年まで務め上げた。
ビジネスの環境が大きく様変わりしても、粘り強く能力を育んでいくというインド系の人たちのアプローチは変わらなかった。
ghスマートの調査によると、信頼性、すなわち安定的に成果を上げ続ける能力――この能力はghスマートが挙げる4種類の「CEOゲノム」の1つでもある――は、インド系CEOの際立った強みになっている。
インド系の経営者たちは、規律を持って課題を完遂することを重んじるリーダーシップスタイルを実践してきたと言えるだろう。
例えば、マイクロソフトのナデラ。
難関のマニパル工科大学(Manipal Academy of Higher Education)で電気工学を学び、92年にマイクロソフトに入社。当初はサーバーソフトウエアのエンジニアだったが、クラウドファースト戦略を指揮して、同社の市場価値を3000億ドルから3兆ドル超に押し上げ、14年にCEO就任した。
グーグルのピチャイは、インド工科大学カラグプール校(IIT KGP)で金属工学を学んだ後に渡米。数社を経て、04年にプロダクトマネジャーとしてグーグルに入った。
ウェブブラウザ「クローム(Google Chrome)」の開発管理などに携わっていたが、今やグーグルと親会社アルファベット両方のCEOとして、AI(人工知能)ファースト戦略への転換を指揮している。
注目すべきは、こうした技術畑出身のインド系経営者の誰一人として、自分の専門分野に固執しなかったことだ。
裏を返せば、それはCEOの選考プロセスで、技術的な専門知識だけでなく、戦略的日和見主義(より大きなチャンスがよそにあることに気付く能力)が重視された証拠だろう。
3.インドで車を運転できれば、世界中どこででも運転できる
インド工科大学の出身者たちが、米企業のピラミッドに食い込み始めた70〜80年代、アメリカのビジネス界は大きな変革期を迎えていた。
リーダーは権威よりも敏捷性、組織学よりもイノベーション、そして経営環境の絶え間ない変化を乗り切る能力が求められるようになった。
そんな中、インド出身者たちがとりわけ高い能力を示したのは、混沌とした状況に対処する能力だった。
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