最新記事
米金利

FRB「次の一手」、物価高止まりと大統領選接近で難しさ増すタイミング

2024年4月30日(火)09時54分
ロイター

米連邦準備理事会(FRB)は30日―5月1日に開く連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利を5.25―5.50%に据え置くと予想されている。写真はワシントンのFRB。2012年4月撮影(2024年 ロイター/Joshua Roberts)

米連邦準備理事会(FRB)は30日―5月1日に開く連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利を5.25―5.50%に据え置くと予想されている。その後公表される声明文には物価上昇率が「依然高止まりしている」との表現が残されるかもしれない。

昨年を通じて着実に鈍化してきた物価上昇率は今年1―3月に再び加速。当面インフレが落ち着く兆しが見えない一方、次第に大統領選が近づいてくる中で、FRBとしては「次の一手」に動くタイミングは難しさが増してきている。

 

直近の物価指標を詳しく見ると、モノとサービス双方で幅広く物価高が続いている様子が分かる。この点こそ、アトランタ地区連銀のボスティック総裁やリッチモンド地区連銀のバーキン総裁らが利下げに慎重な姿勢を打ち出している理由だ。

例えば26日に発表された3月の個人消費支出(PCE)物価指数は、構成品目の半数余りの前年比上昇率が3%超と、新型コロナウイルスのパンデミック前の状態を大きく上回っている。

3月PCE物価指数の前年比上昇率は2.7%と2月の2.5%から上振れ。変動の大きい食品とエネルギーを除くコアは2.8%で2月と同じ伸びだった。これを受け、シティのグローバルチーフエコノミスト、ネーサン・シーツ氏は「FRBはまさに堅固な壁に突き当たっている。これは非常に強いデータで、(目標の)2%に向かっているとの自信を与えるデータではない。FRBとしてはただひたすら待つしかない」とコメントした。

<注目は議長会見>

多くの市場関係者の間では、物価上昇率が向こう1年で減速し、最終的にFRBは第1・四半期の動きを一時的な上振れとみなして利下げの準備を進められる、との見通しがなお有力だ。

ただそのプロセスはゆっくりしか進まない恐れがあり、投資家は既に利下げ開始時期の予想を9月まで先送りしている。

こうした中で開かれる今回のFOMCは経済物価見通しの改定を伴わないので、この先の政策運営姿勢を探る手がかりが出てくるとすれば、パウエル議長の会見になるだろう。

3月に公表された直近見通しで示されたFOMCメンバーが想定する年内の利下げは計3回で幅は75ベーシスポイント(bp)だったが、パウエル氏の最近の発言でこの想定が揺らいできたことが示唆されている。

パウエル氏は16日、足元のデータからはインフレが再び鈍化するとの自信を必ずしも深められず、現段階では労働市場の強さや物価情勢を踏まえれば、もう少し長く引き締め的な政策を続けて、データや先行きの事態がどう変わるのかを見定めるのが適切だとの見解を明らかにした。

JPモルガンのエコノミスト、マイケル・フェロリ氏は、5月1日のパウエル氏の会見でも全体としてこのメッセージが繰り返されそうだと予想。「声明文は前回3月とほぼ変わらないが、パウエル氏はFRBが必要な期間目一杯まで利下げを遅らせ、同時にデータで正当化されれば速やかに利下げする用意があると改めて強調する公算が大きい」と記した。

<政治との距離>

6月に公表される次の見通しでは、パウエル氏は3月時点の政策金利経路の想定を維持しない、というのがフェロリ氏の見方だ。

実際投資家は、もはや年内の利下げは9月の1回にとどまるとみている。

ところが、結局物価情勢が急速に改善せず、9月に利下げを迫られる事態は、FRBにとって鬼門になりかねない。特に大統領選で共和党候補指名が確実なトランプ前大統領が、自分の政権下で利上げを続けたパウエル氏を敵視しているだけに、FRBが望まない政治論争に巻き込まれる可能性があるからだ。

元FRB金融政策局長でドレイファス・アンド・メロンのチーフエコノミストを務めるビンセント・ラインハート氏は、たとえ政策判断がデータを根拠にしていて非政治的であったとして、FRBが秋の大統領選前後に重要な決定を下すのは避けるのが適切ではないかと提言している。

5月以降のFOMCは6月と7月、9月、11月の大統領選直後、12月に開催される予定。ラインハート氏は、政治から独立しているというFRBの評価を守りたいなら6月と12月が政策決定に最も安全な時期だと指摘。FRBとしては6月に動きたいようだが、データがそれを許してくれないと付け加えた。



[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2024トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国10月輸出、予想に反して-1.1% 関税重しで

ビジネス

FRB、近くバランスシート拡大も 流動性対応で=N

ビジネス

再送ホンダ、通期予想を下方修正 四輪販売低迷と半導

ビジネス

オリンパス、グローバルに2000のポジション削減 
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 6
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 9
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 8
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中