最新記事

世界経済

サラリーマンの味方、立ち食いそばが映す世界経済 庶民の味にインフレ圧力

2022年5月6日(金)08時22分

「給料が上がっていないのに、食料品が上がっているというのは、やはり家庭には痛い」と、安さと味に引かれて高本製麺所に通うタクシー運転手の山崎智子(52)さんは語る。「今まで海外に頼っていた部分があるので、それを高く仕入れなければいけなくなり、お店側は値上げしないと運営できない。仕方ないことだなと思っている」

つゆもトッピングも

立ち食いそばのコストを圧迫しているのは、麺だけではない。つゆからトッピングまで、あらゆるものの材料が値上がりしている。

そば粉と混ぜたり、揚げ物に用いる小麦粉は、9割を海外に依存し、日本政府が米国やカナダ、豪などから国家貿易としてまとめて輸入している。市況や為替の変動などを考慮して半年に一度、価格を改定しながら製粉企業などへ売り渡す仕組みだ。

そば業界の関係者の間で驚きの声が上がったのは今年3月。4月の政府売り渡し価格が1トン当たり7万2530円と、前回の昨年10月から一気に17%アップし、過去2番目の高水準へ跳ね上がった。昨夏の荒天で米国とカナダ産が不作、さらに価格高騰で国内分が手当てできなくなったロシアが一時的に輸出を規制したためだった。

さらに最近では、ロシアのウクライナ侵攻による供給不足懸念で先物価格が急伸し、14年ぶりの高値をつけるなど追加値上げへの懸念が衰えない。

店の顔であるつゆの味を決めるしょうゆ、揚げ物用の油などは、ともに原材料である大豆が高騰している。業務用の食用油は斗缶と呼ばれる18リットル入りの角形缶が主な取引単位で、日清オイリオグループは今月1日から斗缶当たり700円以上価格を引き上げた値上げた。およそ1割の値上げとなる。

バイオ燃料需要の増加、中国の旺盛な需要、ラニーニャ現象、カナダの高温乾燥、インドネシアの規制──日清オイリオの発表文にはその理由が列挙されている。コスト高要因は複雑に絡み合い、容易に鎮静化しそうにない。

今年2月に14年ぶりの値上げに踏み切ったしょうゆ最大手のキッコーマンは4月27日の決算発表で、2023年3月期の業績予想の公表を見送った。原材料価格と為替の変動が大きく、予想数値を示すことが困難だとした。

同社の中野祥三郎社長は、今後の追加値上げの可能性を問う質問に、現時点で決まったことはないとしながら「今後の原料価格などの動きを注視しながら考えていく」と述べた。

「10円、20円単位で日々勝負しているだけに、様々なものが同時に値上がりする中で、非常に重い負担増」と、高本製麺所の石原さんは言う。「10%から15%ぐらいは上げる品物が出てきそうだ」

(基太村真司、岡本亜希子 取材協力:伊藤光雪、グラフィック:照井裕子、編集:久保信博)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・ロシア戦車を破壊したウクライナ軍のトルコ製ドローンの映像が話題に
・「ロシア人よ、地獄へようこそ」ウクライナ市民のレジスタンスが始まった
・【まんがで分かる】プーチン最強伝説の嘘とホント
・【映像】ロシア軍戦車、民間人のクルマに砲撃 老夫婦が犠牲に


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国外相、レアアース需要への対応約束 インド当局者

ワールド

ハマス同意のガザ停戦案、イスラエルは回答を精査中 

ビジネス

中国シャオミ、第2四半期は予想上回る30.5%増収

ワールド

エア・カナダと客室乗務員が暫定合意、 スト終結で運
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 5
    【クイズ】2028年に完成予定...「世界で最も高いビル…
  • 6
    AIはもう「限界」なのか?――巨額投資の8割が失敗する…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    「これからはインドだ!」は本当か?日本企業が知っ…
  • 10
    アラスカ首脳会談は「国辱」、トランプはまたプーチ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 4
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 5
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 6
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 7
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 8
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中