最新記事

エネルギー

ウクライナ情勢で欧州はガスから石炭にシフト それでも主要供給元はロシアという皮肉

2022年2月7日(月)16時10分
ロシア最大級の露天掘り炭鉱で、石炭を掘削しながら移動する石炭列車

欧州では、ロシアがウクライナに侵攻すれば米欧の制裁でロシアからの天然ガス供給が滞るとの不安が高まり、石炭を買い込む動きが拡大している。写真はロシアのクラスノヤルスク地方にある、ロシア最大級の露天掘り炭鉱で、石炭を掘削しながら移動する石炭列車。2017年11月29日撮影(2022年 ロイター/Ilya Naymushin)

欧州では、ロシアがウクライナに侵攻すれば米欧の制裁でロシアからの天然ガス供給が滞るとの不安が高まり、石炭を買い込む動きが拡大している。欧州向けの主要石炭供給国であるロシアは高笑いだ。

欧州連合(EU)は温室効果ガス排出量を2050年に実質ゼロにするとの目標を掲げ、化石燃料、特に石炭への依存からの脱却を目指している。しかし実際には昨年半ば以降、天然ガスから石炭への移行が進行している。

船舶仲介会社ブレ―マーACMが船舶運航追跡データに基づいて行った分析によると、EUの1月の石炭輸入は前年同月比55.8%増の1080万トンで、ロシアが全体の43.2%を占めた。オーストラリアの比率は約19.1%。EUの石炭輸入は昨年12月も増えており、35.1%増の930万トンだった。

2021年全体のロシアからの燃料用一般炭の輸入は前年比16.2%増の3110万トンで、大半はドイツ、ベルギー、オランダ向けだった。

欧州諸国は、天然ガスはロシアが供給を絞ったために価格が記録的水準に上昇したと主張している。しかしロシアはこうした見方を否定。欧州の顧客との契約上の合意は満たしており、ドイツが海底ガスパイプライン「ノルドストリーム2」の稼働を承認すればロシア産の供給が増え、価格は下がるとしている。

一方、天然ガス価格の高騰で石炭需要は今後も高まり続けると見られる。

国際エネルギー機関(IEA)は先に、電源として石炭の方が天然ガスより価格が安いため、欧州は今年の天然ガス需要が4.5%落ち込むとの見通しを示した。

石炭供給に限りも

石炭も供給への制約から値上がりしており、いずれ欧州諸国の買い漁りも頭打ちになるだろう。

一般炭の3月物現物は欧州で1月に価格が78%上昇。豪ニューキャッスル港積みは71%上昇した。

ブレーマーのばら積み貨物アナリスト、マーク・ニュージェント氏は「他の主要供給国、例えばコロンビアや米国における供給面の制約で、石炭市場は一段と供給が逼迫している」と述べた。

一般炭の輸出が世界で最も多いインドネシアは1月1日、国内電力会社向けの需要を確保するために石炭輸出を1カ月禁止した。

1月31日に禁輸措置は解除されており、需給の引き締まりは緩むかもしれない。しかし出荷の再開を認められているのは国内市場の販売に関する新しい規制を遵守している石炭採掘業者に限られている。

世界最大の石炭消費国である中国は供給量の約90%を国内で調達しており、海外市場の動静の影響を受けにくい。

しかしトレーダーは、世界の供給は逼迫しており、中国で予期せぬ混乱が起こった場合の影響を吸収する余地がないと危惧している。中国は電力の60%以上を石炭に依存している。

欧州諸国の大半は石炭への依存度を大幅に引き下げているが、バックアップのために石炭火力発電を維持し、燃料の調達が可能であれば稼働させている。

S&Pグローバル・プラッツのマネジャー、マット・ボイル氏は「欧州が夏を迎えれば状況が少しは緩和される」と見ている。ただ、「その間に紛争が起きれば、電力会社がもっと石炭を手に入れようと思っても難しくなるかもしれない」と語る。

(Jonathan Saul記者、Nina Chestney記者)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2022トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・ウクライナ危機で分断される欧州 米と連携強める英 宥和政策の独 独自外交唱える仏
・【ウクライナ侵攻軍事シナリオ】ロシア軍の破壊的ミサイルがキエフ上空も圧倒し、西側は手も足も出ない
・バイデン政権、ロシアのウクライナ侵攻準備を懸念「偽旗作戦の工作員が配置された」


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ネタニヤフ氏、イランの「演習」把握 トランプ氏と協

ワールド

トランプ氏、グリーンランド特使にルイジアナ州知事を

ワールド

ロ、米のカリブ海での行動に懸念表明 ベネズエラ外相

ワールド

ベネズエラ原油輸出減速か、米のタンカー拿捕受け
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    【外国人材戦略】入国者の3分の2に帰国してもらい、…
  • 5
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 6
    「信じられない...」何年間もネグレクトされ、「異様…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中