最新記事

世界経済

景気刺激策、拙速な撤回に警戒感 よみがえる過去の失敗

2021年7月5日(月)09時42分

米連邦準備理事会(FRB)がタカ派姿勢に転じたことにより、世界の金融市場は各国・地域当局が金融・財政刺激を早い段階で巻き戻し始める可能性に目覚めた。仏ボルドーで2016年3月撮影(2021年 ロイター/Regis Duvignau)

米連邦準備理事会(FRB)がタカ派姿勢に転じたことにより、世界の金融市場は各国・地域当局が金融・財政刺激を早い段階で巻き戻し始める可能性に目覚めた。拙速に当局が行動すれば、景気は回復が根付かないうちに息切れしかねないリスクにも気が付いた。

米連邦公開市場委員会(FOMC)は利上げ時期の見通しを2024年から23年に前倒しし、コロナ禍に対応した債券購入を終わらせる方法についても議論を始めている。

ノルウェー中央銀行は早ければ9月にも利上げする可能性がある。ニュージーランドでも強い経済指標を受けてエコノミストが利上げ予想時期を前倒しするようになっている。ドイツ連銀のワイトマン総裁とオーストリア中銀のホルツマン総裁は今週、欧州中央銀行(ECB)高官として初めて、1兆8500億ユーロ(2兆2000億ドル)規模のパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)の縮小を公然と口にした。

08年世界金融危機の後には、中銀はインフレ予防のための金融引き締めを急ぎ過ぎた結果、道を引き返す羽目になった。投資家はこの再来を懸念する。ECBは債務危機のさなかの11年4月と7月に利上げしたが、ほんの数カ月後に利下げに再転換。FRBは15年に利上げを始めたが、今は多くのアナリストから、不必要に景気回復を頓挫させた失策だったと見なされている。

チューリヒ・インシュアランス・グループの首席市場ストラテジスト、ギ・ミラー氏は「金融刺激策を早く撤回し過ぎるよりは、長く続け過ぎる方がましなことを理解するのが大事だ」と語る。

ラッセル・インベストメンツの債券グローバル責任者、ジェラード・フィッツパトリック氏は「過去に比較できる事例がある点は、今の市場に非常に有意だ」と述べ、FRBが利上げをあまりに急ぎ過ぎることへの懸念を示した上で、「これが実際に始まっている感じがもうしてきている」と話した。

FRBがハト派色を後退させれば、他の中銀も追随しかねないとの懸念もある。

問題は財政

しかし政策立案者が本当に留意すべきなのは、財政刺激策を拙速に引っ込めることによる悪影響の方かもしれない。

金融危機で各国・地域が打ち出した財政刺激策は、コロナ禍対応の財政刺激策に比べれば小さかった。しかも欧州など一部の地域では当時、財政緊縮論が幅を利かせており、刺激策はすぐに打ち切られた。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

鉄鋼関税、2倍の50%に引き上げへ トランプ米大統

ビジネス

アングル:トランプ関税、世界主要企業の負担総額34

ワールド

トランプ米大統領、日鉄とUSスチールの「パートナー

ワールド

マスク氏、政府職を離れても「トランプ氏の側近」 退
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岐路に立つアメリカ経済
特集:岐路に立つアメリカ経済
2025年6月 3日号(5/27発売)

関税で「メイド・イン・アメリカ」復活を図るトランプ。アメリカの製造業と投資、雇用はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プーチンに、米共和党幹部やMAGA派にも対ロ強硬論が台頭
  • 3
    イーロン・マスクがトランプ政権を離脱...「正直に言ってがっかりした」
  • 4
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
  • 5
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 6
    【クイズ】生活に欠かせない「アルミニウム」...世界…
  • 7
    「これは拷問」「クマ用の回転寿司」...ローラーコー…
  • 8
    ワニにかまれた直後、警官に射殺された男性...現場と…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
  • 1
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「MiG-29戦闘機」の空爆が、ロシア国内「重要施設」を吹き飛ばす瞬間
  • 2
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」時代の厳しすぎる現実
  • 3
    【クイズ】世界で最も「ダイヤモンド」の生産量が多い国はどこ?
  • 4
    「ウクライナにもっと武器を」――「正気を失った」プ…
  • 5
    アメリカよりもヨーロッパ...「氷の島」グリーンラン…
  • 6
    デンゼル・ワシントンを激怒させたカメラマンの「非…
  • 7
    「ディズニーパーク内に住みたい」の夢が叶う?...「…
  • 8
    友達と疎遠になったあなたへ...見直したい「大人の友…
  • 9
    ヘビがネコに襲い掛かり「嚙みついた瞬間」を撮影...…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 3
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの運動」とは?
  • 4
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 5
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 6
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 7
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    部下に助言した時、返事が「分かりました」なら失敗…
  • 10
    今や全国の私大の6割が定員割れに......「大学倒産」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中