最新記事

米中対立

アメリカの対中制裁、世界の政府系ファンドや年金基金を直撃

2021年1月30日(土)11時33分

ハイテク分野を巡る米中両国の対立激化が、幾つかの世界最大級の政府系ファンド(SWF)や年金基金を苦境に追いやっている。写真はノルウェーの政府系ファンド(SWF)が置かれているノルウェー中央銀行。オスロで2018年3月撮影(2021年 ロイター/Gwladys Fouche)

ハイテク分野を巡る米中両国の対立激化が、幾つかの世界最大級の政府系ファンド(SWF)や年金基金を苦境に追いやっている。ロイターがこれらの機関投資家のデータや開示資料を分析して明らかになった。

「とばっちり」を受けている形の投資家は1兆1000億ドル(約114兆1100億円)規模の全米教職員年金保険組合(TIAA)から、ノルウェーやシンガポールのSWF、スイス国立銀行(中央銀行)まで多岐にわたる。

直接の原因は、トランプ前大統領が昨年11月に中国の軍と関係があると見なす企業に米国民が投資するのを禁止するとする命令を出したことだ。これまでに40余りの中国企業がブラックリストに掲載された。

そのためTIAA傘下のヌビーンは、ブラックリストに加えられた中国電信(チャイナテレコム)、中国移動通信(チャイナモバイル)、中国聯通(チャイナユニコム)、中国海洋石油(CNOCC)、中芯国際集成電路製造(SMIC)、小米科技(シャオミ)といった保有銘柄の売却を余儀なくされた。

他の米公的年金も追随するとみられる。例えばカリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)は、チャイナテレコムの香港上場株(H株)を1.1%、チャイナモバイルとチャイナユニコムのH株は0.2%を持っていることがリフィニティブで確認できる。カルパースは米共和党議員から中国企業への投資を批判されてもいる。同年金はコメント要請に応じていない。

2000億ドルを動かすフロリダ州運用管理理事会(FSBA)もチャイナテレコム、チャイナモバイル、シャオミの株を少量だが保有しており、ロイターの取材に対して投資禁止命令に従うと回答した。

ステート・ストリート・グローバル・アドバイザーズの政策調査責任者エリオット・ヘントフ氏は「米国の機関投資家にとって、この投資禁止は本当に痛手になっている」と指摘する。

中国投資の拡大に冷水

もっとも影響は米国だけにとどまらない。ブラックリストに掲載された中国企業について、ニューヨーク証券取引所が上場廃止に動いたばかりか、MSCIやS&Pダウ・ジョーンズ、FTSEラッセルが一斉に株価指数から除外した。このため、これらの企業の株価は一部が20%余りも急落し、ポートフォリオに組み込んでいた海外のいくつものSWFを直撃した。

世界最大のSWFであるノルウェー政府年金基金(資産1兆3000億ドル)は、昨年初めまでの直近の情報開示によると、さまざまな中国株350億ドル相当を保有。その中にはチャイナテレコム、チャイナモバイル、シャオミ、CNOCC、チャイナユニコムも持ち分0.2-0.6%程度の割合で含まれていた。取材したところ、保有する個別銘柄に関するコメントはしないとの返答だった。

シンガポール政府投資公社(GIC)はチャイナテレコムのH株10%と、SMICの中国本土上場株(A株)とH株約1.4%を持っていることが、証券取引所への届け出書類に基づくロイターの計算で判明した。コメントは拒否している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

カナダの原油パイプライン拡張完了、本格輸送開始

ビジネス

豪NAB、10─3月キャッシュ利益13%減 自社株

ワールド

ウクライナ、今冬のガス貯蔵量60%引き上げへ

ワールド

ソロモン諸島、新首相に与党マネレ外相 親中路線踏襲
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中