最新記事

自動車

EVで世界トップに上り詰めたテスラ、新たな電池戦略 試されるイーロン・マスク流「吸収」の極意

2020年9月21日(月)11時50分

全てを自前で改善する

マスク氏は2004年、生まれて間もないテスラの経営権を握って以来ずっと、提携や買収、人材スカウトを通じて技術を十分に吸収し、自家薬籠中のものとしてきたと同社の戦略に詳しい関係者は証言する。

テスラの狙いはフォード・モーターが1920年代に導入した原料から完成車までの一貫生産態勢、つまり垂直統合型企業のデジタル版だ、という。

テスラのサプライチェーン担当幹部だったトム・ウェスナー氏は「イーロンはサプライヤーがやってきたこと全てを改善できると考えていた。文字通り全部だ。彼は逐一自前で製造したがっていた」と指摘する。

そうしたマスク氏の戦略にとっては、EVのコストの大部分を占めるバッテリーが中心的な存在になる。部下らはバッテリーセルの自社生産に何年も反対してきたのだが、マスク氏はなおも追求し続けている。

提携関係は曲折の歴史

テスラのある元役員の話では、マスク氏は2011年に社内のチームに自前でのバッテリー生産検討を指示。結局は13年になってパナソニックとの間で、ネバダ州の合弁工場「ギガファクトリー1」での生産協定を結び、パナソニックは最近、同工場の生産ライン拡張計画を打ち出した。

ところが今になって、テスラはフリーモントで試験的にバッテリーセル製造ラインを稼働させ、ベルリン近郊に本格的なセル製造施設を建設しようとしている。

テスラのこうした提携先との関係の曲折は、パナソニックだけの話ではない。例えば早くからテスラに出資していたダイムラーとの協力を進める中で、マスク氏は自動車の走行レーン維持に使われるセンサー類に興味を抱いた。

テスラの「モデルS」の改装を手助けしたのはメルセデス・ベンツのエンジニアだ。しかし、この時点では、モデルSは、メルセデスの「Sクラス」にあるようなカメラや精密な運転支援センサー、ソフトウエアは装備していなかった。

ダイムラーのある幹部エンジニアは「マスク氏はこれらの技術を学び取り、さらに先に進んだ。われわれは我が社のエンジニア連中に、月を狙え(野心的な目標を立てろ)と言い聞かせているが、彼は一挙に火星まで行ってしまった」と驚きをあらわにした。

一方、やはり出資者だったトヨタ自動車<7203.T>はマスク氏に、品質管理のノウハウを伝授。最終的にはダイムラーとトヨタの何人かの幹部がテスラに合流し、アルファベット子会社グーグルやアップル、アマゾン、マイクロソフト、あるいはライバルのフォードやBMW、アウディなどから集められた人材とともに、重要な役割を担っている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ADP民間雇用、8月は5.4万人増 予想下回る

ビジネス

米の雇用主提供医療保険料、来年6─7%上昇か=マー

ワールド

ウクライナ支援の有志国会合開催、安全の保証を協議

ワールド

中朝首脳が会談、戦略的な意思疎通を強化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中