最新記事

世界経済

「韓国・文在寅の最低賃金引き上げは失策」説を信じるな 国家の大問題を語る人よ、落ち着け

2020年8月13日(木)19時25分
デービッド・アトキンソン(小西美術工藝社社長) *東洋経済オンラインからの転載

このデータポイントだけを見れば、そのストーリーは成立します。しかし、このデータポイントだけを見て、「韓国はダメになった」と決めつけてはいけません。もっと長いデータを見て、その動きを検証するべきです。

長期データで「最低賃金引き上げ後の失業率」を見る

実は、2018年も2019年も、最低賃金を引き上げた年初めは失業率が大きく上昇しましたが、その後年末にかけて、失業率は大きく低下しているのです。

reuters__20200813124315.jpg

もっと長いデータで見ると、韓国では毎年、第1四半期の失業率が跳ね上がり、年末に向けて落ち着く傾向が確認できます。

2018年に最低賃金を引き上げたときは、失業率の上昇が注目されて、大きな悪影響を与えているように報道されました。しかし韓国経済の統計を見ると、第1四半期に失業率が大きく跳ね上がるのは毎年のことで、別に珍しい現象ではないことがわかります。

reuters__20200813124319.jpg

毎年跳ね上がる「第1四半期」だけを比べてみると......

失業率が毎年第1四半期に跳ね上がるのであれば、2018年と2019年の第1四半期の数値は、それ以前の年の第1四半期と比較するべきです。最低賃金の大幅な引き上げによって、普通以上に失業率が跳ね上がったのかどうかを探るべきなのです。

2018年と2019年の第1四半期には、全体の失業率はそれぞれ4.1%と4.2%でした。2000年からの平均が4.2%ですので、失業率の上昇は「例年並み」と言えます。15~24歳の失業率の失業率は2018年も2019年も11.7%でした。2000年からの平均値は11.4%ですので、多少高いだけです。

reuters__20200813124547.jpg

最低賃金引き上げの影響はすぐになくなった

次に、2019年には最低賃金による混乱が第2四半期まで続きましたが、その影響はどこまで継続したのでしょうか。

それを探るには、第4四半期のデータを見るべきです。2018年と2019年の第4四半期には、全年齢の失業率はそれぞれ3.5%と3.2%です。平均は3.5%ですので、平均以下です。15~24歳でも、それぞれ9.1%と8.5%で、平均の9.2%を下回っています。

reuters__20200813124545.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米テキサス州洪水の死者43人に、子ども15人犠牲 

ワールド

マスク氏、「アメリカ党」結成と投稿 中間選挙にらみ

ビジネス

アングル:プラダ「炎上」が商機に、インドの伝統的サ

ワールド

イスラエル、カタールに代表団派遣へ ハマスの停戦条
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中