最新記事

米中新冷戦2020

コロナ禍、それでも中国から工場は戻ってこない

NO, JOBS WILL NOT COME BACK

2020年6月11日(木)06時40分
エドワード・オルデン(米外交評議会上級研究員)

ILLUSTRATION BY NEWSWEEK JAPAN; SQUARELOGO/SHUTTERSTOCK, GOLDEN SIKORKA/SHUTTERSTOC

<パンデミックで打撃を受けた米企業がサプライチェーンの脱中国依存を図っても、アメリカに雇用が戻らない2つの理由。本誌「米中新冷戦2020」特集より>

ドナルド・トランプ米大統領の掲げる「アメリカ第一主義」で、最も重要なのは雇用の国内回帰だ。2017年の就任演説でも「取り残される大勢のアメリカ人労働者のことを考えもせず、工場は次々と閉鎖され、国外へ出て行った」と非難し、自分の政権は「アメリカ人の仕事を取り戻す」と豪語していた。
20200616issue_cover200.jpg
あれから3年余り。新型コロナウイルスの感染拡大で10万人以上のアメリカ人が死亡し、1930年代の大恐慌時を上回る失業者があふれている今、トランプとその閣僚たちはついに公約実現の機会が来たと考えているようだ。

ロバート・ライトハイザー米通商代表は5月に、コロナ危機による経済の混乱でアメリカ企業は「国内に雇用を戻す」しかなくなったと指摘し、「効率性の飽くなき追求」で製造拠点を国外に移転した米企業に、遅ればせながら天罰が下ったという認識を示した。ウィルバー・ロス商務長官も、まだコロナ危機が中国だけの問題に思えた1月の時点で、このウイルスが「北米への雇用回帰を促す」だろうと語っていた。

この2人の「予言」を実現させるため、トランプ政権はあの手この手を使い、それなりの成果を上げてきた。5月半ばには台湾積体電路製造(TSMC)が、アリゾナ州に半導体製造工場の新設を発表した。半導体調達のアジア依存を減らすことにつながる重要な一歩だ。後発医薬品やその原材料(その一部は新型コロナウイルス感染症の治療にも使われる)をバージニア州で生産するという新興企業には、総額3億5400万ドルの政府支援を約束した。

米中関係悪化の責任が誰にあるかは別として、アメリカ企業のサプライチェーンの脆弱性(中国への過剰依存)は以前から指摘されていたところであり、その抜本的な見直しは急務とされていた。またトランプ政権が貿易に関して打ち出した具体的な措置(鉄鋼・アルミ製品への追加関税、北米自由貿易協定の再交渉、中国との貿易戦争など)は全て、製造業の国内回帰を念頭に置いていた。アメリカが中国からの輸入品に課す関税率の平均は、2018年1月時点で3.1%だったが、今や20%に迫ろうとしている。

だが、それでアメリカ企業は戻ってきただろうか? 外交面のトラブルは別にしても、「アメリカ第一主義」には2つの大きな欠陥がある。第1に、貿易戦争と感染症の拡大が同時進行している現状で、アメリカ企業が製造部門を本格的に国内へ戻すとは思えない。第2に、現業部門の自動化が進む現状では、製造拠点を国内に回帰させても、アメリカ人が満足するような雇用の創出につながる可能性は低い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NZ経済、第3四半期は前期比+1.1% プラス成長

ワールド

EU、農産物輸入規制強化で暫定合意 メルコスルFT

ビジネス

オラクル、データセンター出資協議順調と説明 投資会

ワールド

ベネズエラ国営石油がタンカー積み込み再開、輸出は大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 9
    9歳の娘が「一晩で別人に」...母娘が送った「地獄の…
  • 10
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中