最新記事

日本政治

浮かび上がるポスト安倍問題 政治の安定失えば「日本売り」も

2019年11月21日(木)12時40分

米中の狭間で求められる外交手腕

「ポスト安倍」に求められているのは、ゆがみも目立ってきた国内経済への対応はもちろんだが、外交手腕の重要性がさらに増すとみられている。

BNPパリバ香港・アジア地域機関投資家営業統括責任者の岡澤恭弥氏は「中国が経済圏を広げていくの避けられない。米国との対立は今後も続く。こうした中、地政学的に米中の中間に位置する日本は、米中間をうまく渡っていければ、メリットを受けることができる」と指摘する。

マーケットがみる「ポスト安倍」の筆頭候補は、岸田文雄自民党政調会長と菅義偉官房長官だ。

菅官房長官は、国内向け政治手腕には定評があり、知名度も「令和おじさん」としてアップした。しかし、「外交経験が乏しい」(外資系投信)と市場は懸念する。

その点、外務大臣を務めた岸田政調会長は、外交に一定の経験がある。さらに岸田派の領袖であり、安倍首相との関係からみて「禅譲」の可能性が一番高いとみられている。しかし、こちらは「国内をまとめ切れるか未知数」(シンクタンク系エコノミスト)との不安が市場にはある。

「再々登板」のシナリオ

そこで、市場でささやかれているのが、安倍首相が一度辞めて、それから復帰するという再々登板のシナリオだ。自民党党則では「1期3年、連続3期まで」となっているので、一度辞めれば、四選禁止を避けられる。

また実際に復帰する必要はない。もしかすると再登板するかもしれないという見方を維持できれば、影響力を保つことが可能だ。安倍首相が「院政」を敷いて、にらみを効かせば、新首相のバックアップになる。アベノミクスが継承されれば、市場との良好な関係も続く。

しかし、長い目で見て日本にとってそれが良いことかは別だ。「安倍政権が若い世代を中心に高い支持率を保ってきたのは、痛みをともなう改革を避けてきたからだ。経済や企業にゆがみも目立ってきた。次期首相にはアベノミクスの後始末が求められる」とピクテ投信投資顧問のシニア・フェロー、市川眞一氏は指摘する。

残された時間はあまりない。何かのきっかけでインフレが進めば、いまの金融・財政政策は立ちいかなくなる。マーケットを味方につけながら、外交で器用に立ち回り、国内の雇用改革や成長戦略を進めることができるか。後継者の担う課題は安倍時代よりもさらに重くなることだけは間違いない。

*下から8段落目の表現を明確に再送しました。

(編集:青山敦子)

伊賀大記

[東京 21日ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20191126issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

11月26日号(11月19日発売)は「プラスチック・クライシス」特集。プラスチックごみは海に流出し、魚や海鳥を傷つけ、最後に人類自身と経済を蝕む。「冤罪説」を唱えるプラ業界、先進諸国のごみを拒否する東南アジア......。今すぐ私たちがすべきこととは。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米政権、インテル株取得を検討 11日のCEOとの会

ビジネス

米国株式市場=横ばい、PPI受けインフレ警戒 S&

ビジネス

FRBパウエル議長、22日にジャクソンホール会議で

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、PPI受け来月の大幅利下げ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化してしまった女性「衝撃の写真」にSNS爆笑「伝説級の事故」
  • 3
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 4
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 5
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 6
    【クイズ】アメリカで最も「盗まれた車種」が判明...…
  • 7
    「デカすぎる」「手のひらの半分以上...」新居で妊婦…
  • 8
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 9
    「ホラー映画かと...」父親のアレを顔に塗って寝てし…
  • 10
    マスクの7年越しの夢...テスラ初の「近未来ダイナー…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 3
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何か?...「うつ病」との関係から予防策まで
  • 4
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 5
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 6
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 7
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 8
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 9
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 9
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中