最新記事

株式

中小証券会社、株式取引のアウトソース加速 低金利に悩む業界の新たな収益源に

2019年8月14日(水)12時00分

ゴールドマン・サックスの元トレーダー、ベンジャミン・アーノルド氏(37)の仕事は夜10時から始まる。写真はロンドンのノーザン・トラストのオフィス。1日撮影(2019年 ロイター/Toby Melville)

ゴールドマン・サックスの元トレーダー、ベンジャミン・アーノルド氏(37)の仕事は夜10時から始まる。米ユタ州に構えた小さなオフィスでアジアの株式取引を本格的に行う。ただし自己勘定ではなく、顧客になっているアジアの資産運用会社のために注文を出し、取引を執行しているのだ。

アーノルド氏はヘッジファンドや銀行で15年間働いた後、トレーディングを請け負う会社を立ち上げ、中小の資産運用会社から強まる一方の需要を取り込もうとするニッチ企業の一群に加わった。

同氏は「手をこまねいて世界の変化をただ見守るか、積極的に足を踏み入れてその変化の一員になるかを決める時期が来ている」と話した。

背景には、規制強化に伴う負担増や乏しい利益率、急速な技術発展を受けて多くの資産運用会社がコスト削減を迫られ、日々のトレーディングを外部の企業に任せようとしている流れがある。

トレーディングの外注需要は今年に入って加速。特に欧州連合(EU)が昨年、第2次金融商品市場指令(MiFID2)を導入したことで、資産運用業界は厄介な書類手続きが増え、窮地に陥っている。

ロイターが資産運用会社や銀行、証券会社などの幹部に取材したところでは、中小の資産運用会社にとって自前で2人のトレーダーを雇うよりも、トレーディングを外注する方が最大で40%もコストが少なくて済むという。

トレーディング部門立ち上げの支援や資産運用会社への規制関連の助言をしているエルゴ・コンサルタンシーのマイケル・ブロードベント氏は、今年は外注化への「巨大な移行」が見られると話す。

トレーディング外注ビジネスはまだ生まれたばかりだ。ただ専門家によると、ヘッジファンド運用者などの大手機関投資家向けに複雑な金融サービスを提供するプライムブローカレッジ業務では、最も成長著しいセグメントの1つになっている。

現在は約25社がトレーディング請負サービスを展開し、このうち少なくともウェルズ・ファーゴ、BTONファイナンシャル、そしてアーノルド氏のメラキ・グローバル・アドバイザーズなど4社は今年事業を開始した。数年前、こうしたサービスを行っていた企業はごく少数だった。

先月には中堅ブローカーのINTL FCストーンがプライムブローカレッジ業務強化に向けて、トレーディング請負会社フィルモア・アドバイザーズを買収した。

ノーザン・トラストやジェフリーズ・ファイナンシャル・グループといった一部の有力金融機関も、幅広い顧客のために社内にトレーディングを請け負う独自の外注チームを設置している。

これらのトレーディング請負部門は、資産運用会社などの「バイサイド」の投資家の実質的な手足として機能し、あらゆる分析作業や管理業務、法令順守などを代行する。顧客の注文を単に執行するだけの「セルサイド」のトレーディング事業とは全く内容は異なる。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

スペイン、今夏の観光売上高は鈍化見通し 客数は最高

ワールド

トランプ氏、カナダに35%関税 他の大半の国は「一

ビジネス

トランプ氏の銅関税、送電網などに使用される半製品も

ワールド

日米韓が合同訓練、B52爆撃機参加 国防相会談も開
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 10
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中