最新記事

株式

中小証券会社、株式取引のアウトソース加速 低金利に悩む業界の新たな収益源に

2019年8月14日(水)12時00分

拡大する市場

金融コンサルティング会社オピマスの調査では、資産額500億ドル超の資産運用会社の5社に1社は、2022年までにトレーディング部門の一部を外注化する見通しだ。外注ビジネスの世界全体の収入は年間4億5000万─5億ドルで、1年で20─30%増加すると予想される。

トレーディングをそれほど頻繁に手掛けなかったり、内部のチームを維持するコストに見合うだけの取引額がない中小の資産運用会社にとっては、外注化の魅力は高まる一方だ。

オピマスは、ある資産運用会社の株式トレーダーの年間取引額が15億ドル未満なら、外注化の方が安上がりになるとみている。

ノーザン・トラストに日々のトレーディングを完全に任せ、戦略的な問題に注力できるようにしているクラックス・アセット・マネジメントのカレン・ザカリー最高執行責任者(COO)は、この態勢を維持していくのが好ましいとの見方を示した。

複数の市場参加者やリサーチ部門の担当者によると、資産運用会社は一般的に外注化によって取引1件当たり約5ベーシスポイント(bp)の費用を支払うが、社内でトレーディングを行った場合の費用は8bp前後になる。また専門家の試算では、3人態勢のトレーディング部門の年間コストはおよそ150万ドルに上る。中小の資産運用会社が通常雇っているトレーダーは2、3人だ。それに加えて、規制当局への取引を報告したり、MiFID2を守るためのコストも負担しなければならない。

待望の収益源

銀行・証券業界では、トレーディング請負サービスを提供する動きは広がる一方だ。自分たちも規制に苦しめられ、慢性的な低金利の逆風にさらされている彼らにとっては、待望の収益源が登場した形だ。

グリニッチ・アソシエーツのシニアアナリスト、リチャード・ジョンソン氏は「セルサイドも独自の課題に直面している。固定費が増加し、手数料のプールは縮小しているからだ。この動きの中で、トレーディング外注は強力なニッチ(隙間)と手を出さずにはいられない価値ある事業を生み出した」と説明した。

ノーザン・トラストがトレーディング請負を始めたのはほぼ2年前で、現在は32社の顧客を抱える。機関投資家向けブローカレッジ責任者ゲーリー・ポーリン氏は、18人で構成する請負チームは昨年、1450億ドル相当の株式取引を行ったと述べた。トレーダー1人当たりでは80億ドル前後になる。

ジェフリーズのプライムブローカレッジ部門がトレーディング請負に乗り出したのは昨年6月で、共同責任者ジョン・ラウブ氏は現在の顧客が70社だと明かした。

ラウブ氏の話では、16年時点で新興の資産運用会社のうちトレーディングを外注していたのは全体の10%弱だったが、今は7割を超えている。

メラキのアーノルド氏は「トレーディング外注はまだ成長が始まったばかりの段階で、われわれのような企業を利用する資産運用会社はこれからどんどん増えていくと考えている」と語った。

(Thyagaraju Adinarayan記者、Helen Reid記者)

[ロンドン ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

ニューズウィーク日本版 大森元貴「言葉の力」
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年7月15日号(7月8日発売)は「大森元貴『言葉の力』」特集。[ロングインタビュー]時代を映すアーティスト・大森元貴/[特別寄稿]羽生結弦がつづる「私はこの歌に救われた」


今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日経平均は反発で寄り付く、米株高を好感 ファストリ

ワールド

訂正ブラジル大統領、米50%関税に報復示唆 緊張緩

ワールド

英首相がトランプ氏と会談へ、月内のスコットランド訪

ワールド

米国務省、人員削減計画を近く開始 影響受ける職員に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 6
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中