最新記事

経済理論

「左派的ただ乗り論」と叩かれるMMT トランプの政策と親和性持つ皮肉

2019年8月14日(水)12時16分

現代貨幣理論(MMT)の提唱者として知られるニューヨーク州立大学ストニーブルック校のステファニー・ケルトン教授(写真)は、ロングアイランドのセトーケット港を見下ろす自宅から、米政府の経済政策運営に革命を起こしたいと考えている。ニューヨークで6月11日撮影(2019年 ロイター/Howard Schneider)

現代貨幣理論(MMT)の提唱者として知られるニューヨーク州立大学ストニーブルック校のステファニー・ケルトン教授は、ロングアイランドのセトーケット港を見下ろす自宅から、米政府の経済政策運営に革命を起こしたいと考えている。

しかしそれは常に不愉快な思いを味わうことになる。連邦政府は、デフォルト(債務不履行)や外国債権団による制約、インフレ高進といったリスクにわずらわされることなく、雇用保証でも環境対策でも好きなだけ支出できるというMMTの主張は、主流派の経済学者から「左派的なフリーランチ(ただ乗り)論」だとツイッターなどで批判の嵐にさらされている。

また米議会が巧みな予算策定と規制を用いれば、物価をコントロールする役割を連邦準備理事会(FRB)から接収できる、と考えているMMT推進派は、非現実的な連中とのレッテルを貼られてきた。

ケルトン氏自身、野党・民主党の大統領候補指名を目指すバーニー・サンダース上院議員のアドバイザーも務めているという面でやや苦しい立場になっている。伝統的に財政規律を重視してきたはずの与党・共和党が擁するトランプ大統領が、実はケルトン氏の理論を最も受け入れている人物に見えるからだ。

実際ケルトン氏は、トランプ氏と議会共和党が2017年終盤に1兆5000億ドルの大型減税を通過させるため、邪魔になる予算上のさまざまな制約を課すのを許さず、連邦債務を22兆ドル超に膨らませたと指摘している。

民主党もゲームに参戦する態勢のようだ。

議会では最近、今後2年間で歳出を2兆ドル引き上げることで与野党が合意。来年の大統領選を巡っても、民主党の候補指名を争っている人々はいずれもこれまで財政規律に言及するのをほぼ避けている。

左派系シンクタンク、ワシントン・センター・フォー・エクイタブル・グロースなどは、経済の新たな「自動安定化装置」の検討を開始した。不況時に連邦歳出を議会の手続きなしで高めるという仕組みで、ケルトン氏は経済が悪化した場合には失業者を吸収できる雇用保証制度によってこうした安定化が達成できると論じている。

サンダース氏をはじめ、野心的な歳出案を打ち出して大統領選に出馬している民主党の候補者は、正式にMMTへの支持は表明していない。それでも金融政策はもはや新たな景気悪化への処方せんにならないかもしれないとの認識が広がっていることもあり、MMTは全米的な議論に一定の影響を及ぼしている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

イラン戦争は2週目に、トランプ氏「無条件降伏」求め

ビジネス

アングル:欧州で若者向け住宅購入の新ビジネス、価格

ワールド

焦点:道半ばの中国「社会保険改革」、企業にも個人に

ワールド

昨年の関税合意実施を米と確認、日本が不利にならない
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だったはずの中国が、不気味なまでに静かな理由
  • 2
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 3
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗雲...専門家「イランの反撃はこれから」「報道と実態にズレ」
  • 4
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 5
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 6
    10歳少女がライオンに激しく襲われる...中国の動物園…
  • 7
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 8
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 9
    【WBC】侍ジャパン、大谷翔平人気が引き起こした球場…
  • 10
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中