最新記事

キャッシュレス

キャッシュレス化は消費促進に有効? 消費税引き上げ対策にも

2019年7月12日(金)12時30分

7月3日、現金決済が8割と、ドイツに次いで割合が高い日本でもキャッシュレス化が広がり始めた。写真は楽天ペイを使った支払いが可能な東京のコーヒーショップ。5月30日撮影(2019年 ロイター/Issei Kato)

今年のプロ野球開幕戦、球場に足を運んだ東北楽天ゴールデンイーグルスのファンは、それまで経験したことがないような「不便」な状況に出くわした。食べ物や飲み物を売るスタンドが、現金を受け付けなくなったのだ。

親会社の楽天が、QRコードによる決済アプリ「楽天ペイ」などの利用促進を図ろうと、球場内のキャッシュレス化に踏み切ったのだ。このマーケティング戦略は、すぐに想定以上の効果を生み出した。

球団の本拠地「楽天生命パーク宮城」(仙台市宮城野区)は、4、5月の飲料や物販の売り上げが前年同期比プラス20%に急増した。キャッシュレス化で観客の消費行動が変化したことがその一因だ。

楽天ペイを運営する楽天ペイメントの諸伏勇人マーケティング編成部部長は、「1つの成功事例だと思っている」と胸を張り、「日本ではモバイル決済が始まったばかりで、(小売り側も)全員が直ちに導入する訳ではないだろう。だがこうした成功事例が増えていけば、(導入が)増えると思う」と期待する。

現金決済に年間1兆円のコスト

専門家は、レジに並ぶ列が早く進めば、より多くの人が並ぶようになると説明する。消費者は財布から現金が出ていくところを見ないで済むため、買い物で満足感を得ることに集中し、より多くのお金を使うという。

こうした心理は、物価が安定、または下がることを期待して支出がずっと先送りされてきた「デフレマインド」の日本経済にとって、「鍵」になるものかもしれない。日銀は2013年以降、2%の物価目標に向けて300兆円以上を費やし、国債などの資産買い入れを進めてきたが、達成できていない。

10月に予定される消費税率10%への引き上げが、消費支出を下押しする可能性がある。このリスクを認識する政府は、日本に根付き始めたばかりのモバイル決済の普及に賭けている。

消費増税が実施されるのと同時に、政府は中小の小売店でキャッシュレス決済した買い物客に、ポイントを還元する仕組みを9カ月間実施する。19年度は約2800億円の予算を計上。2020年度分は今後検討される。

「決済は全ての経済活動に発生するもの。(キャッシュレス化は)社会全体を変える可能性がある」と、経産省キャッシュレス推進室の伊藤政道室長は話す。同推進室は、25年までにキャッシュレス決済を120兆円に倍増させることを目標に、18年10月に設置された。

日本では決済の8割を現金が占め、残りがクレジットカードやスマートフォン決済、プリペイドカードなどだ。先進国ではドイツに次いで現金の使用率が高い。

日本は犯罪率が低く、多額の現金を持ち歩くことに人々が不安を感じないほか、社会の高齢化もキャッシュレス化の浸透を阻む要因とみられている。

調査会社スタティスタによると、世界の消費大国に名を連ねるインドや中国では、モバイル決済が全体の30─35%を占める。

日本の国内消費はここ6年、年平均0.5%の伸びにとどまる。だが野村総合研究所(NRI)によると、キャッシュレス決済を導入した店舗は客単価が平均1.6%上昇している。

政府はキャッシュレス化に伴う効率化により、人手不足や金融機関の収益低下といった、日本経済にまつわる頭痛の種も軽減される可能性があるとしている。

野村総研によると、小売店舗は1日平均2時間以上を現金の管理に費やしている。また、日本社会は紙幣の印刷から現金輸送、現金自動預払機(ATM)の管理まで、現金決済に必要なインフラ維持に年間1兆円を費やしている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

グリーン英中銀委員「利上げに傾かず」、今月の会合巡

ビジネス

Temuの中国PDD、第4四半期売上高・利益が予想

ワールド

米メタとグーグルに損害賠償評決、未成年者SNS依存

ワールド

中東紛争長期化は成長に打撃、インフレ期待押し上げ 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」モナコ舞踏会に見る富と慈善
  • 2
    意外と「プリンス枠」が空いていて...山崎育三郎が「日本産ミュージカルの夢」に賭ける理由【独占インタビュー】
  • 3
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終回に世界中から批判殺到【ネタバレ注意】
  • 4
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 5
    「有事の金」が下がる逆説 イラン戦争で市場に何が…
  • 6
    デンマーク王妃「帰郷」に沸騰...豪州訪問で浮かび上…
  • 7
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 8
    【クイズ】2年連続で「世界幸福度ランキング」で最下…
  • 9
    地上侵攻もありえる...イラン戦争が今後たどり得る「…
  • 10
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 1
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え時の装いが話題――「ファッション外交」に注目
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公開...母としての素顔に反響
  • 3
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラ…
  • 6
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 7
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 8
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 9
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中