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「M&Aも優れた経営者も不要」創業100年TOTOが成長し続ける理由

2018年1月12日(金)18時22分
杉本りうこ(東洋経済記者)※東洋経済オンラインより転載

独自技術がつまったタンクレストイレ「ネオレスト」は、TOTOの看板製品に成長した(写真:TOTO提供)

世界の消費者を魅了する日本のイノベーションといえば、かつてならばソニーのウォークマンやホンダのスーパーカブ。では現代は? TOTOのウォシュレットはそのひとつではないだろうか。

ウォシュレットの発売から40年弱。用を足した後にボタンを押しておしりを洗うことは、日本人にとって当たり前の動作になった。今では競合商品も増えたが、消費者はどのメーカーの製品でも「ウォシュレット」というTOTOの商標で呼ぶ。それほど高い認知度なのだ。

海外では発売当初は奇異に受け止められたが、近年は急速に浸透。高級ホテルやランドマークで導入され、アジア・米国の富裕層にも人気だ。海外での販売台数は右肩上がりで増え、TOTOの業績は売上高・営業利益ともに過去最高を更新している。株式市場での評価は高く、喜多村円社長がトップに就任した2014年4月から時価総額は約2.3倍に膨らんだ。

この成長を、企業買収に頼らず、ひたむきに「看板商品=トイレ」のイノベーションに取り組むことで実現してきたTOTO。いったい、どんな会社なのか。喜多村社長に聞いた。

僕が名経営者である必要なんかない

――業績、株価とも好調です。経営手腕を発揮できた実感がありますか。

いやいや、今の結果は前社長、前々社長が作ったもの。僕の成果だなんて、おこがましくて絶対に言えない。僕がやったことの成果が出るのは、次の社長の時代からです。そもそも僕たちは、個々の社長のカラーなんていらないと思っていますしね。

――社長の個性は、いらない?

いらない。TOTOのカラーさえあればいい。

――普通は「優れた経営者として認められたい」という欲が経営者にはあると思います。「自社だけでなく、できるなら財界の顔にもなりたい」と考える人もめずらしくない。

うそでしょう。そりゃあちょっとはそんな経営者もいるかもしれないけれど。TOTOの社長はだいたい、5~6年で交代します。一方、わが社の製品の買い替えスパンは10~20年。社長の任期に対して、商品の寿命が圧倒的に長いのです。だから、自分の社長時代に製品を買ってくれた人が次もTOTOを選んでくれるときには、自分はもう間違いなく会社にいません。

それでも今、10年後や20年後の責任を負う意思を持つ。「あの時代の商品はダメだった」と言われないように経営する。そういうトップの思いを代々つないでこられたことが、TOTOのガバナンス(企業統治)の強さです。

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TOTOの喜多村円社長は「僕という個人が名経営者である必要はない」と強調する(撮影:今井康一)

――会長や相談役として経営に長く関与する仕組みは作れます。自己承認欲求という観点でいえば、自らの手腕をずっと認められたいと経営者が考えるのは、自然な欲といえます。

あえて欲求というなら、「TOTOは素晴らしい会社だと言われたい」という気持ちがありますね。だけどそのために、僕という個人が名経営者である必要性はありません。せいぜい後の社員から、「喜多村くんの始めたことが、今実っているね」と言われたいぐらいです。

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