最新記事

日本経済

日銀緩和前提で財政再建は先送りか

2015年6月26日(金)10時25分

だが、マーケットでは日銀に出口政策に向うフリーハンドはないという突き放した見方が少なくない。みずほ証券・チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏は「日銀が急激な緩和縮小で、市場を壊すことは考えられない」と予想。早期の緩和縮小の可能性はないとの立場だ。

また、国内金融機関関係者の1人は「財政再建の着実な進展が予見できる状況にならなければ、国債買い入れの縮小が不測の金利急騰をもたらす恐れがある。財政状況と無関係ではいられない」と述べる。

さらに悲観的な予測もある。日銀に近い関係者は、PB黒字化が達成できなければ、財政への信認が揺らぎ、長期金利上昇の圧力が高まるだろうと予測。「その際は、長期金利を名目成長率以下に抑えるべく、日銀に対する緩和圧力が高まりかねない」と危惧する。

実際、政府・与党関係者の一部からは、足元で低金利が継続し、円安・株高で市場が安定していることもあり、財政再建を急がず、新規国債発行による景気刺激を優先してもいいのではないか、という主張も出てきた。

だが、こうした動きには「表向き市場は何も変化がないかもしれないが、(市場変動の)マグマはさらに蓄積される」(みずほ証券の上野氏)と警鐘を鳴らす見方も出ている。

2%達成時、試される日銀の本音

アベノミクスと日銀のQQEは、今後、どのような軌跡をたどるのか。富士通総研エグゼクティブ・フェローの早川英男氏は「悲劇は日銀が2%の物価目標を達成した時に起こる」と指摘する。

その際、市場が財政の持続可能性を信じていなければ、日銀の国債購入中止によって国債価格が急落すると予測。

他方、買い入れを続けても急激な円安とインフレ加速のスパイラルに陥るとし、「市場の大混乱が避けられない」と予測する。

政府がQQEを事実上、不可欠のピースと位置付けていることで、日銀の苦悩が深まりつつある。

さらに不幸なことに、QQEの成果で2%達成がかなり早く実現することになると、金利上昇圧力が高まって、出口政策に向かわせないようにする政治的な力が働く公算が大きい。

日銀にとって、政府の財政再建計画の中身と市場反応、現実の物価動向という3つの変数の動向が、今後の政策の行方を大きく左右する。黒田東彦総裁率いる日銀は、これから物価目標達成を含めて「胸突き八丁」にさしかかる。

*見出しを修正しました。


(竹本能文、伊藤純夫 編集:田巻一彦)


120x28 Reuters.gif

Copyright (C) 2015トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米経済「想定より幾分堅調」の公算、雇用は弱含み=F

ワールド

ハマスは武装解除を、さもなくば武力行使も辞さず=ト

ビジネス

情報BOX:パウエルFRB議長の講演要旨

ワールド

米の対中関税11月1日発動、中国の行動次第=UST
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 5
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 8
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    あなたの言葉遣い、「AI語」になっていませんか?...…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 10
    あなたは何型に当てはまる?「5つの睡眠タイプ」で記…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中