最新記事

中国経済

1年経って閑古鳥の上海自由貿易区

李首相の肝煎り政策で期待は高かったが、金融規制の緩和はほとんど進まず失望感が広がる

2014年10月29日(水)15時48分
シャノン・ティエジー

評判倒れ? 上海の浦東新区に設置された試験区だが中身は期待外れ Carlos Barria-Reuters

 中国の李克強(リー・コーチアン)首相は先月、上海自由貿易試験区を視察した。約1年前、金融改革や本格的な規制緩和に向けた「実験の場」として鳴り物入りで発足した特区だ。李は試験区の設置を後押しした大物政治家の1人とされ、このプロジェクトが失敗すれば大きな痛手を被ることになる。

 当初、試験区への期待は非常に高かった。「財経」誌編集長の胡舒立(フー・シューリー)はその重要性について「1980年代の経済特区の設置と2001年の中国のWTO(世界貿易機関)加盟に続く、中国経済自由化の3つ目の大きな節目と言えるだろう」と述べた。「貿易自由化、投資の規制緩和、行政の効率化、国際標準に沿った金融システムの改革といった上海の使命は、国益に大きく関わる」

 だが現時点で、試験区は期待に応えているとは言い難い。

 フィナンシャル・タイムズは先月初め、試験区での規制緩和が進んでいないことに失望感が広がっていると伝えた。金利の自由化や資本移動の規制緩和といった面で「大きな変化はまったくと言っていいほどみられない」と同紙は指摘する。

 改革の遅れは、経済界だけでなく中央政府にとってもいら立たしい問題だ。
試験区の規制緩和でさえなかなか軌道に乗れないのだから、旧来の政策を変えようと試みる李や習近平(シー・チンピン)国家主席ら改革派がどれほどの困難に直面しているかは想像に難くない。中国経済を消費主導型に転換する政策は政治的に難しいのでは──試験区の改革の遅れをきっかけに、そんな懸念も高まっている。

 人材の問題もある。国営新華社通信は9月半ば、試験区管理委員会の常務副主任だった戴海波(タイ・ハイポー)が離任したと伝えた。香港の英字紙サウスチャイナ・モーニングポストによれば、汚職の取り締まりに関連して辞任を余儀なくされたという。

 同紙の表現を借りれば、戴は「経済特区に外資を呼び込む経験豊かなテクノクラート」。試験区のある上海市浦東新区の官僚は同紙に対し、戴の辞任は試験区の「発展を遅らせる要因になり得る」と述べている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 8

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 9

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中