最新記事

テクノロジー

アップルがグーグルを訴えない理由

スマホ 知的財産権の侵害を巧みに回避する「本命」グーグル相手では勝ち目がない?

2012年9月28日(金)15時00分
ダニエル・ライオンズ(テクノロジー担当)

盛者必衰 アンドロイドは「アップルのまね」から「アップル超え」へ Robert Galbraith-Reuters

 アップルはグーグルのアンドロイドOSを搭載したスマートフォンの製造元を次々と訴えてきた。しかしグーグルに対しては1件の訴訟も起こしていない。当面はグーグルのパートナー企業を徹底してたたき、つるし上げ、彼らがアンドロイドから手を引くのを待つ作戦らしい。

 なぜグーグルを正面切って訴えないのか。相手が強いからだ。アップルの知的財産にまつわる問題に関して、グーグルはパートナー企業よりも格段に賢い。

 アンドロイドOSのコア・システム(グーグルがメーカー各社に提供する基本コード)は、アップルが特許を主張しそうな特徴を慎重に回避している。例えばiPhoneでは、メニューをスクロールして最後まで行くとスクリーンが「バウンド」する仕組みになっているが、アンドロイドではスクリーンが「ティルト(傾く)」。

 ロック画面にも工夫がある。アップルは(信じがたい話だが)iPhoneの「スライドしてロック解除」機能を自社の発明と主張しており、他社には使わせない。そこでアンドロイドの最新版では、ロック画面に南京錠のアイコンを採用した。これを右に動かすと電話が使え、左に動かせばカメラが使える。真っすぐ上ならグーグル・ナウに飛んで天気予報や交通情報をチェックできる。お分かりだろうか。グーグルはアップルのまねどころか、アップルより優れたものを生み出せるのだ。

 カリフォルニア地裁でのサムスン敗訴を受けて、グーグルは「今回問題となった特許の大部分はアンドロイドOSのコア部分と無関係だ」とする声明を発している。そのとおりだが、すべてが無関係とは言い難い。

 今回の訴訟で特許侵害と指摘された機能に、「ピンチ(つまむ)してズーム」と「タッチしてズーム」がある。画面表示を拡大する際の指の動かし方に関するものだが、同様な指の動かし方はアンドロイドのコアにも組み込まれている。

 もちろんアップルは、ピンチもタッチも自社の発明と主張している。どうすればグーグルはこの主張に反論できるか。

 見た目は同じでも実行するプログラムが異なる、と主張することもできるだろう。あるいは一連の訴訟のどれかが、いずれ連邦最高裁まで行くのを待つ手もある。そうすればまともな判事が、ユーザーインターフェースの基本的要素や(タッチやピンチといった)ありふれた動作には特許を設定できないとの判断を下してくれるだろう。

 まあ、実に常識的な判断である。あいにく今の業界には、その常識が欠けているのだが。

[2012年7月18日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、米国に抗議 台湾への軍用品売却で

ワールド

バングラデシュ前首相に死刑判決、昨年のデモ鎮圧巡り

ワールド

ウクライナ、仏戦闘機100機購入へ 意向書署名とゼ

ビジネス

オランダ中銀総裁、リスクは均衡 ECB金融政策は適
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生まれた「全く異なる」2つの投資機会とは?
  • 3
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地「芦屋・六麓荘」でいま何が起こっているか
  • 4
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 5
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    南京事件を描いた映画「南京写真館」を皮肉るスラン…
  • 8
    レアアースを武器にした中国...実は米国への依存度が…
  • 9
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 10
    反ワクチンのカリスマを追放し、豊田真由子を抜擢...…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中