最新記事

債務危機

ユーロ崩壊への終末シナリオ

ギリシャ再選挙でにわかに現実味を帯びてきた「ユーロ離脱」は、いかに欧州の息の根を止めかねないか

2012年5月16日(水)15時25分
ポール・エイムズ

凶兆 ギリシャ上空の暗雲はスペインやポルトガルにも広がる Yannis Behrakis-Reuters

 そのシナリオが現実になる可能性については、誰も触れようとしてこなかった。ちょっと口にしただけでも、ユーロ圏の崩壊と破滅を想像させるほど恐ろしい未来図だったからだ。

 だがこの数日で、ギリシャがユーロ圏から離脱する危険性は、無視できないほど現実味を帯びるようになってきた。タブー視されてきたこの話題は今、ヨーロッパの財政閣僚たちの間で避けては通れない問題になっている。

「ギリシャがユーロを去った場合の代償は非常に大きなものになる」と、ドイツのウォルフガング・ショイブレ財務相は14日、ユーロ加盟国との会談に先立って語った。ギリシャの離脱を現実的な選択肢として公に語るようになった中央銀行の総裁も複数いる。

 いつも慎重な姿勢を崩さないジョゼ・マヌエル・バローゾ欧州委員会委員長も、ギリシャについて厳しい警告を発した。「クラブのメンバーがクラブのルールを尊重しないなら、クラブに留まるべきではない」と、先週イタリアのテレビ局に語っている。

 EU本部では、恐れるべきはギリシャ離脱だけではないと、ささやかれている。ギリシャが抜けることによってもたらされる混乱は、ポルトガルやアイルランド、スペインなどに急速に拡大し、共通通貨ユーロの崩壊とヨーロッパ経済の破綻につながり得るからだ。

 これはもはやヨーロッパだけの懸念事項ではない。数々の問題を抱えているとはいえ、ユーロ圏は13兆6000億ドル規模を誇る世界第2位の経済圏だ。その崩壊は、リーマンショックとは比べものにならないほどの大災害を世界経済にもたらすだろう。

緊縮財政に反発する政党の躍進

 まだ破滅へのシナリオは回避できる段階にあるが、そのためにはヨーロッパの指導者たちが正しい選択をしなければならない。さもないと、ドミノは一気に倒れ始めかねない。

 ギリシャは5月6日に実施された総選挙の再選挙を6月中旬に行うことになるだろう。世論調査を見れば、緊縮財政に反対する政党は再選挙でもさらに勢力を拡大する見込みだ。

 こうした政党は、ギリシャが総額1300億ユーロの支援策と引き換えに応じた緊縮財政の約束を守らなくてもいいと訴える。これに対し、ドイツをはじめギリシャ救済に乗り出している債権国は、約束が反故にされれれば支援を凍結すると警告。ギリシャ経済が破綻すれば、ユーロ圏からの脱退は免れないだろう。

 ユーロ離脱の見込みが高まるなか、ギリシャ国民が銀行に殺到し、ユーロ建て預金をドイツなど安全な国へ移すようになる可能性もある。通貨がユーロより脆弱な自国通貨に変わることを恐れるからだ。既に2500億ユーロがギリシャ国外に移されたとも伝えられる。

 ギリシャ危機の再燃は、リスクを抱える他の国にも影響を及ぼし始めている。ポルトガルの株式市場は14日に96年以来の最安値を更新し、イタリアやスペインも国債の利回りが今年最高値を付けた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市首相「首脳外交の基礎固めになった」、外交日程終

ワールド

アングル:米政界の私的チャット流出、トランプ氏の言

ワールド

再送-カナダはヘビー級国家、オンタリオ州首相 ブル

ワールド

北朝鮮、非核化は「夢物語」と反発 中韓首脳会談控え
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 5
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 6
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 7
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 8
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 9
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 10
    【ロシア】本当に「時代遅れの兵器」か?「冷戦の亡…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中