最新記事

債務危機

ドイツ国債「札割れ」は風評被害か

健全なドイツ国債が売れない!?異例の事態は市場からの警告かもしれない

2012年1月10日(火)15時47分
千葉香代子(本誌記者)

両刃の剣 メルケルは過重債務国が苦い薬を飲むことにこだわるが Tobias Schwarz-Reuters

 揺れに揺れているユーロ圏の債券市場。ギリシャやイタリア、スペインに続いて先週、欧州の優等生ドイツの国債に異変が起きた。ドイツ政府が行った10年物国債の入札が、応札額が募集額に満たない「札割れ」になったのだ。募集額は60億ユーロだったが、応札額はたったの39億ユーロ。その後ドイツ国債の利回りは上昇し(価格は下落)、翌朝には2・23%まで急騰。財政難と不況に苦しむイギリス国債の2・2%を上回った。

 ドイツ国債がこれほど敬遠されるのは異例中の異例で、欧州債務危機がいよいよ中核国に及んだとみられた。欧州最強のドイツ経済もついに危ぶまれるようになったのか、それともギリシャやイタリアなどの「劣等生」が引き起こしたユーロ危機の「風評被害」を受けたのか。

 これまでは「質への逃避」で買われてきたドイツ国債の信用に投資家が不安を感じ始めたとしたら、理由は3つ考えられる。

 1つは、単純に「高過ぎた」から。ユーロ危機が起きて以来、投資家はこぞってドイツ国債を買ってきたため、価格が高騰。利回りは1・98%という歴史的低水準まで下がっていた。

 2つ目は、通貨ユーロの信認が持たないと見なされ、投資家がユーロ圏全体に背を向け始めた可能性だ。現にドイツの札割れ後は、フィンランド、オーストリアなどドイツと同様財政状況への評価が高かったユーロ圏諸国の国債も売られた。

 その一方で、ユーロに加盟していないイギリスやスウェーデンの国債利回りは低下。各国の実体経済が無視されて「ユーロ」と名が付くだけで敬遠されたのは、風評被害と言えなくもない。

劇薬に怯え始めた市場

 ドイツ国債札割れの原因の第3の可能性は、市場がドイツに政策変更を迫っていること。現在、ユーロ危機を止めるために期待されている2つの政策がある──ユーロ共同債の発行と、欧州中央銀行(ECB)による量的緩和政策だ。いずれも借り手に甘く危険だとしてメルケル独首相が強硬に拒否している。

 ユーロ共同債は、例えばギリシャ政府だけの信用力ではお金が借りられなくても、ユーロ圏全体の信用力で債券を発行して資金調達する構想。ドイツのように強い国が脆弱な国の借金を負担することになるため当然、反対だ。先週、メルケルがユーロ共同債は「必要と思わない」と発言すると、世界の金融市場に失望売りが広がった。量的緩和策は日本もアメリカも行ってきた金融政策だが、インフレを警戒するドイツは及び腰だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

焦点:税収増も給付財源得られず、頼みは「土台増」 

ワールド

米、対外援助組織の事業を正式停止

ビジネス

印自動車大手3社、6月販売台数は軒並み減少 都市部

ワールド

米DOGE、SEC政策に介入の動き 規則緩和へ圧力
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 2
    ワニに襲われ女性が死亡...カヌー転覆後に水中へ引きずり込まれる
  • 3
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。2位は「身を乗り出す」。では、1位は?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 6
    世紀の派手婚も、ベゾスにとっては普通の家庭がスニ…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    あり?なし? 夫の目の前で共演者と...スカーレット…
  • 9
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 10
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 5
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 6
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 10
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中