最新記事

ユーロ危機

優雅で頑固な地中海文化がギリシャを殺す

パパンドレウ首相は、国家財政の粉飾を暴き、緊縮を呼びかけるアングロサクソン的教養の持ち主。人生を楽しみたい国民とのギャップはあまりに大きい

2011年10月27日(木)12時59分
クリストファー・ディッキー(パリ支局長)

アメリカ人? 祖父から3代続いた首相の家だが、外国暮らしが長いパパンドレウの言葉はなかなかギリシャ人に届かない

 ギリシャのヨルゴス・パパンドレウ首相を歓迎するカクテルパーティーが先週、ニューヨークのピエールホテルで開かれる予定だった。会場の天井には、ニューヨーク社交界のエリートたちと古代の神々が歓談する絵がある。一見すると立体的に見えるだまし絵だ。

 1人1000ドルの晩餐と1週間のアメリカ滞在の幕開けにはふさわしいセッティングだった。ミネソタ州で生まれたパパンドレウは結局、アテネ人であると同じくらいアメリカ人なのだから。

 パパンドレウはよく、全国民の改造をもくろんでおり専制的だと批判される。そしてギリシャ財政の破綻を防ぎ、欧州と世界を2度目の金融経済危機から救おうとするパパンドレウの尋常ならざる努力は、ピエールホテルの絵と同じ目くらましにすぎないと金融界から見なされている。

 結局、パパンドレウはパーティーには来なかった。彼はニューヨークに向かう途中、ロンドンで急きょギリシャへの帰国を決め、国連やIMF(国際通貨基金)、米財務省との会談をキャンセルした。

 帰国までして開いた緊急閣議で、ギリシャ政府は公共部門の人員削減を徐々に数万人上乗せすること、また年収5000ユーロ(約52万円)の低所得者世帯も含む幅広い層を対象に所得増税を行うことで合意した。
そのおかげで、喉から手が出るほど欲しかった80億ユーロの金融支援を得られるかもしれない。資金の出し手は、今はトロイカと呼ばれるIMFとEUと欧州中央銀行(ECB)だ。

 それでも、パパンドレウに対して公共部門の雇用や手当、年金にもっと切り込めという圧力は続いている。それは、彼が率いる与党・全ギリシャ社会主義運動(PASOK)の支持基盤の中核に切り込むことと同じだ。

「浪費国家の習慣」と戦う

 ギリシャの緊急閣議はこの世の終わりのような重い空気に包まれていた。デフォルト(債務不履行)は「避けられない運命だという雰囲気だった」と、閣僚の1人は言う。苦い薬も飲んだ。だが、別の政府高官が口にしたように「薬が患者を殺すこともある」。

 パパンドレウはプレッシャーに強い。彼が14歳だった67年、ギリシャ軍が実権を掌握し、兵士がアテネの彼の自宅に元首相の父アンドレアス・パパンドレウを捜しに来たときのこと。兵士らはパパンドレウの頭に銃を突き付け隠れている父親に呼び掛けた。「アンドレアス、出て来なければ息子の頭を撃ち抜くぞ」

 この事件は「パパンドレウにとって政治への洗礼になった」と、パパンドレウ家と付き合いがあるハーバード大学の経済学者リチャード・パーカーは言う。「パパンドレウは成長しながら、いったいどんな人物になりたいかについて大きな決断を下さなければならなかった」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

カンザスシティー連銀総裁、12月FOMCでも利下げ

ワールド

駐日中国大使、台湾巡る高市氏発言に強く抗議 中国紙

ビジネス

米国とスイスが通商合意、関税率15%に引き下げ 詳

ワールド

米軍麻薬作戦、容疑者殺害に支持29%・反対51% 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新作のティザー予告編に映るウッディの姿に「疑問の声」続出
  • 4
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 7
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 8
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 9
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    レイ・ダリオが語る「米国経済の危険な構造」:生産…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中