最新記事

携帯

快進撃サムスンを待つ落とし穴

スマートフォン「ギャラクシー」は絶好調だが、アップルの特許訴訟やグーグルによるモトローラ買収が転落の引き金になる恐れも

2011年9月26日(月)14時30分
千葉香代子(本誌記者)

勝算は? サムスンは9月初めに新型タブレット端末「ギャラクシータブ7・7」を発表したが Thomas Peter-Reuters

 4月に発売したスマートフォンの新機種「ギャラクシーS2」を世界最短の3カ月弱で500万台販売するなど、快進撃を続けてきた韓国サムスン電子の前途に、突如暗雲が垂れ込め始めた。

 ドイツのデュッセルドルフ地裁は今月初め、iPadのデザインをサムスンに模倣されたとするアップルの特許侵害の訴えを受け入れ、サムスンの新型タブレット型パソコン「ギャラクシータブ10・1」の販売をオランダを除くEU各国で差し止める仮処分を決定。差し止めは後にドイツのみに限定されたが、サムスンのタブレット型パソコンの年間販売目標750万台のうち250万台程度が行き場を失うところだった。

 しかも特許訴訟は、ギャラクシー携帯も含めアメリカ、オーストラリアなど世界中に拡大している。

 さらに先週、携帯端末メーカーにOS「アンドロイド」を提供しているグーグルが、米携帯電話メーカーのモトローラ・モビリティの買収を発表。これまでの無償公開をやめ、モトローラにオリジナルの携帯端末を作らせて販売するのではないかという臆測が流れ、韓国のIT株は急落した。そうなれば最も打撃が大きいのは、アンドロイド搭載端末で世界最大のシェアを持つサムスンだ。

 しかもサムスンの4事業のうち、半導体と液晶パネルは世界的不況のあおりで減収減益。テレビも売り上げが落ち込んでおり、好調なのは携帯端末を含む通信事業だけ。今年5〜7月期に全社の営業利益の45%の1兆6700億ウォンを稼ぎ出した。

 朝鮮日報によると、韓国のIT業界は携帯電話からスマートフォンへの移行期に、世界の頂点からあっという間に没落したフィンランドの通信大手ノキアと自分たちを重ね合わせているという。韓国各紙も「韓国がソフトウエアに弱い理由」などの見出しを掲げて、違法コピー文化や企業系列などを指摘する。

 サムスンにできるのは、モトローラを凌駕するハードを作り続けてアンドロイドの提供を受け続けること。そして自前の優れたソフトウエアを開発することだ。9月2日にはちょうど、自社開発の携帯端末向けOS「bada(バダ)」を搭載したスマートフォン「Wave3」を発表する予定だ。

 バダは、アップルとグーグルが攻勢を強める携帯ビジネスでサムスンが生き残れるかどうかの試金石になるだろう。

[2011年8月31日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英中銀ピル氏、QEの国債保有「非常に低い水準」まで

ワールド

クラウドフレアで障害、数千人に影響 チャットGPT

ワールド

イスラエル首相、ガザからのハマス排除を呼びかけ 国

ビジネス

ユーロ圏銀行、資金調達の市場依存が危機時にリスク=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 7
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 8
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「中国人が10軒前後の豪邸所有」...理想の高級住宅地…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中