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ヨーロッパがITオンチの理由

「ツイッター」「フェースブック」の言葉は報道以外は宣伝になって不公平?でも欧州に競争相手なんか見当たらない

2011年7月28日(木)17時21分
ブライアン・パーマー

小さいEU サルコジ仏大統領がいくら欧州のリーダーぶっても、所詮そこは27のバラバラの市場 Philippe Wojazer-Reuters

 テレビやラジオで「ツイッター」「フェースブック」という言葉を報道以外で使うことをフランス政府が禁じた。ただで両社の宣伝をすることになり不公平だから、というのが理由だ。

 しかし、このソーシャルメディア大手2社に太刀打ちできるヨーロッパ企業は見当たらない。金融情報サービス会社ブルームバーグによれば、世界のIT企業トップ100社でヨーロッパを本拠とするのは7社しかない。なぜこれほど遅れているのか。

 最大の要因は市場が均質でないこと。EUが経済統合を進めているといっても、新規参入組から見れば、やはりそこは27の異なる市場だ。

 例えばノルウェーでソーシャルメディアのサイトを開設すれば、潜在利用者数は500万人。米アラバマ州と同程度だ。それでいて異言語と異文化に対応する営業戦略が求められ、その国ならではの規制や税制もある。

 そのため国内の中小企業のほうが事業を展開しやすく、アメリカやアジアのように巨大企業が市場を制することにならない。欧州生まれの大手ソフトウエア企業もないことはないが、欧州全体の経済力にIT産業の規模が釣り合わないのが現状だ。

 アメリカでIT企業を起こした欧州出身者らは、ほかにも理由を挙げる。まずシリコンバレーが魅力だという。人材が豊富な上、コンサルティングやインフラ支援を行う企業もそろっている。さらに重要なのは、投資会社との交渉が現地で可能なこと。ヨーロッパにはこうしたIT産業の集積地がない。

 フランスやドイツなどの厳しい労働法制も足かせになる。頻繁に人材が移動しながら急成長する業界にとって、採用や解雇の制度がややこしい市場は危険を伴う場所と言っていい。

 米欧の技術力の差は新しい問題ではない。米タイム誌は67年、西欧諸国の指導者たちがアメリカの技術革新に焦りを感じていると報じた。記事はヨーロッパ市場の小ささに加えて、研究開発費の少なさも指摘している。アメリカは防衛技術の民生応用を巧みに実現していた。

 時代は下って00年、EUの欧州理事会は教育や研究開発の拡充を目指す「リスボン戦略」を開始した。だが、この10年計画は不発に終わったとの見方がもっぱらだ。

[2011年6月22日号掲載]

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