最新記事

債務危機

英金融紙FTがユーロに「死亡宣告」

欧州の債務国では既に静かな取り付けが起こっていて、それを穴埋めするドイツ連銀も青くなり出した

2011年6月3日(金)17時55分
トマス・ミュシャ

崩壊寸前 加盟国の債務問題で追い詰められたユーロ圏に残された選択肢は少ない Ralph Orlowski-Reuters

 複雑なグローバル経済の仕組みを理解することにかけては、フィナンシャル・タイムズの経済論説委員マーティン・ウルフの右に出るものはいない。そのウルフがユーロ圏は「失敗した」と言えば、当然注目すべきだろう。6月2日付けのフィナンシャル・タイムズに掲載された彼の論説を見てみよう。


 ユーロ圏は失敗した。初めて直面する金融危機・財政危機にして、この通貨圏を成り立たせている原則は「役立たず」であることが証明された。今のユーロ圏には2つの選択肢しかない。より強い結びつきに向かって前進を続けるか、少なくとも部分的な解消を許す方向へ後退するかだ。それが現実だ。


 ユーロ圏が設立された理由の一つは、多様な性質を持つ欧州諸国の経済を均質化することだった。だから単一通貨の導入は、加盟国全体にとって理にかなうもののはずだった。

 これについてウルフは次のように論じている。


 ユーロ圏はかつての金本位制の現代版になるはずだった。対外赤字を抱える国は、域内の民間資金に国債を買ってもらうことで資金調達を行っている。その資金が滞れば国の経済活動は縮小へ向かう。失業率が上がり、労働賃金や物価が下がり、やがて実力がユーロに見合わなくなる「内なる通貨切り下げ」が進行する。長期的に見ればこの切り下げによって、対外債務の返済と財政赤字の解消は進むはずだが、それには長く激しい痛みを伴う。


 では、今は何が問題なのか。ユーロ諸国の国債を買っているのはほとんどが銀行で、その多くは危険な状態に陥っている。「危機が起きれば、流動性を失った銀行部門は崩壊を始める」と、ウルフは書いている。「巨額の対外債務を抱えて信用力を失った政府がこの事態を回避するためにできることはほとんどない。つまりこれは、強い金融部門の上に成り立つ金本位制のようなものだった」

 そこで、欧州諸国には2つの「耐え難い選択肢」が残ると、ウルフは述べる。


 ユーロ圏は耐え難い2つの選択肢に突き当たる。デフォルト(債務不履行)と通貨圏の部分的解消を許すか、公的な資金援助を際限なく続けるかだ。この選択肢は、永続的な連合というものには少なくとも、当初の想定以上に大規模な金融統合と、より多くの財政支援が必要なことを示している。これら選択肢をめぐる駆け引きはどうなっていくのか? 私にはまったく分からない。誰か分かっている人などいるのだろうか。


 経済学者のポール・クルーグマンはニューヨーク・タイムズのコラムで、ウルフの論説を取り上げている。


(ウルフの)主張を要約するなら、ユーロ圏の非主要国では既に緩やかな銀行取り付けが進行しているということだ。そして、こうした国々の銀行システムを維持するには、例えばアイルランドの中央銀行がドイツ連邦銀行から資金を借り入れ、それを国内の民間銀行に貸し付けることで逃げ出した預金分を穴埋めするしかない、ということだ。


 事態はより深刻になるというウルフの主張に、クルーグマンも同意する。


 事態はパニック段階にある理由は分かるだろう。ドイツ連銀は、国債を担保に融資している債務国の資金繰りの悪さにあわてている。もし一部の債権放棄による債務再編などが行われて資金供給がストップすれば、債務国の銀行システムは崩壊するだろう。ウルフは、これにより債務国のユーロ圏離脱が起こると考えている。

 だからECB(欧州中央銀行)は、債務再編は考えられないと言い続けている。しかし(債務国の)緊縮財政はうまくいっておらず、通常の資金調達が行える状態に戻る見込みも遠ざかっている。

 例えるなら、ユーロ圏という原子炉の水位は燃料棒が露出するほど下がってしまっている。もうメルトダウンは始まっているのだ。


GlobalPost.com 特約

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

年内に第三者委員会から最終報告が出る状況にはない=

ビジネス

26年春闘の要求、昨年より下向きベクトルで臨む選択

ビジネス

仏CPI、10月前年比+0.8%に減速 速報から下

ビジネス

内田日銀副総裁が白血病治療で入院、12月政策会合に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 5
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 6
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 7
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 8
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 9
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 10
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中