最新記事

ネット

プライバシーも過保護は禁物

2011年5月31日(火)13時24分
ファハド・マンジュー

 大規模なデータ蓄積が可能にするのはスペルチェック機能だけにとどまらない。例えば音声認識は、無数の音声サンプルとテキストを基に人間の発話を理解する方法を機械に教える。

 検索ログを分析してコンピューターのセキュリティーに対する大規模な脅威を察知することもできる。異常な検索(ウイルスが脆弱なサーバーを探すために行う)に気付けば、ウイルスをその場で阻止できる。

「クラウドソース方式の交通情報」もある。グーグルマップの「マイロケーション」機能を使えば、ユーザーはいつでも匿名で自分が現在どこにいるかの位置情報を送信できる。グーグルはその情報を収集・分析し、幹線道路はもちろん一般道路についてもリアルタイムの交通情報を作成できる。

 さらに重要な分野は予測だ。現在何が検索されているかを調べることで、グーグルは将来何が起きるかを推測できる。グーグルは08年、世界各地のユーザーの検索傾向からインフルエンザの流行を予測するサイト「グーグル・フル・トレンズ」を公開。09年の論文によれば、グーグル検索を使って小売りや失業保険申請など経済データも予測できる。

 スペルチェック、フル・トレンズ、音声認識といったデータに基づく機能は、どれも計画的なものではなかった。グーグルはスペルチェック機能構築のために検索キーワードの蓄積を始めたのではない。キーワードの蓄積を始めたからスペルチェック機能を構築でき、最終的にはデータベースが役に立つ可能性に気付いたのだ。

「被害妄想」的な部分も

 つまり、オンライン上のプライバシーについて過保護になるのは危険ということ。私たちは企業が個人情報の蓄積を減らし、複雑な手続きを踏まなければ増やせないようにすべきだと主張する。米議員はネットサービス企業のプライバシー管理を強化する法案を推進している。FTCとグーグルの和解をすべてのネットサービス企業に拡大しようという動きまである。

 プライバシー対策の強化が誠意ある議論のたまものなら、私は反対しない。問題はユーザーがめったにプライバシーについてきちんと議論しないことだ。

 ネット上の「プライバシー」を守れと言うとき、ユーザーは正直なところ何を求めているのか。自分がネット上にこぼした情報を1つ残らず管理することだろうか。

 個人情報保護を訴える多くの人々は、匿名情報と個人を特定できる情報の区別が薄れつつあるのではないかと懸念している。ネットサービス企業が広範なデータ蓄積によって、「匿名」であるはずの情報を分析して個人を特定できるのではないか、と。そこで一部の規制当局は、企業が蓄積する匿名情報を制限することを提案している。

 しかしユーザーは、代償を承知しておくべきだ。確かに企業はユーザーの行動の多くを追跡する。それでも今度単語のスペルを間違えたり、渋滞に巻き込まれたり、コンピューターがウイルスでシャットダウンしたら、思い出そう。追跡されるのもまんざら悪くない、と。

©2011 WashingtonPost.Newsweek Interactive Co. LLC

[2011年4月27日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米ADP民間雇用、8月は5.4万人増 予想下回る

ビジネス

米の雇用主提供医療保険料、来年6─7%上昇か=マー

ワールド

ウクライナ支援の有志国会合開催、安全の保証を協議

ワールド

中朝首脳が会談、戦略的な意思疎通を強化
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 2
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...地球への衝突確率は? 監視と対策は十分か?
  • 3
    「見せびらかし...」ベッカム長男夫妻、家族とのヨットバカンスに不参加も「価格5倍」の豪華ヨットで2日後同じ寄港地に
  • 4
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 5
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 6
    Z世代の幸福度は、実はとても低い...国際研究が彼ら…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「農産物の輸出額」が多い「…
  • 8
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 9
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が下がった「意外な理由」
  • 2
    1日「5分」の習慣が「10年」先のあなたを守る――「動ける体」をつくる、エキセントリック運動【note限定公開記事】
  • 3
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体」をつくる4つの食事ポイント
  • 4
    25年以内に「がん」を上回る死因に...「スーパーバグ…
  • 5
    豊かさに溺れ、非生産的で野心のない国へ...「世界が…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 8
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 9
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 10
    上から下まで何も隠さず、全身「横から丸見え」...シ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大ベビー」の姿にSNS震撼「ほぼ幼児では?」
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 6
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中