最新記事

ネット

プライバシーも過保護は禁物

個人情報の保護強化でグーグルユーザーのメリットが激減する?

2011年5月31日(火)13時24分
ファハド・マンジュー

トレードオフ プライバシーを守れば守るほど利便性は減ってしまう Arnd Wiegmann-Reuters

 ネット上のプライバシーはどこまで守られるべきか。その議論を飛び越えて、規制だけが強化されている。

 グーグルは3月末、新サービスのプライバシー侵害をめぐって米連邦取引委員会(FTC)との包括的な和解案に合意した。和解案には2年ごとの「プライバシー監査」も含まれる。グーグルは昨年2月、電子メールサービス「Gメール」にソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)「グーグル・バズ」を追加。そのバズをめぐって、プライバシー保護を強化するようFTCから求められていた。

 FTCが言うには、バズは欠陥だらけ。ユーザーが参加を望まなくても一部機能が自動的に有効になっており、「無効にする」を選んでもバズのネットワークから個人情報を完全には削除できなかった。自発的に参加した場合でも、個人情報を公開しない方法が明示されていなかった。

 バズはグーグル自体のプライバシーポリシーに違反していたという。同社の規定では、ある製品で入手した個人情報を別の目的に使う場合は本人の承諾を得ることになっている。ところが今回グーグルはGメールで集めた情報を、本人の承諾を得ずにGメールとはまったく無関係のSNSサービスを構築するのに利用した。

 以上の違反により、グーグルはインターネットサービス企業で唯一、個人情報の取り扱いについて2年ごとの外部監査を20年間受けることに同意した。

 グーグルは過ちを償うべきだというFTCの主張はうなずける(グーグルは謝罪し、プライバシー保護規定を見直したとしている)。外部監査も賢明なやり方をすれば、公正さを保つのに役立つかもしれない。

 しかし心配なのはそこだ。監査は本当に適正に実施されるだろうか。過度の規制でグーグルがユーザーの情報を収集・分析できなくなるかもしれない。そうなったら悲惨だ。

インフルエンザの予測も

 ネットサービス企業が収集する個人情報は大まかに分けて2種類──個人を特定できる情報(氏名や友人リストなど)と、個人には結び付かない情報だ。プライバシーについて論じるとき、私たちはこの重要な区別をめったにしない。企業が個人情報を集めることのデメリットには注目するが、個人情報がなければ不可能な技術革新のメリットには目を向けようとしない。特に匿名情報は個人の特定には役立たないが、目覚ましい技術革新の基盤となり得る。

 実際、グーグルの最も人気のある機能の一部は、個人情報抜きでは実現しなかった。例えばスペルチェック機能。「レベッカ・ブラック」のスペルを間違って入力しても正しいスペルが分かる。普通の辞書ベースのスペルチェックではできない芸当だ。つい最近まで無名だった有名人の名前なのだから。しかしグーグルは他のユーザーの検索履歴を大量に蓄積しているので、ブラックが「フライデー」という曲で一躍有名になった13歳の少女のことだと分かる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

印機墜落、地上の学生寮で24人死亡か ブラックボッ

ワールド

中国、在イスラエル・イランの国民に警戒呼びかけ 情

ビジネス

中国遠洋海運、パナマ港湾買収協議に参加=ブルームバ

ワールド

岩屋外相、イスラエルのイラン攻撃「強く非難」 最大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    【動画あり】242人を乗せたエア・インディア機が離陸…
  • 7
    【クイズ】今日は満月...6月の満月が「ストロベリー…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 10
    ゴミ、糞便、病原菌、死体、犯罪組織...米政権の「密…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 3
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 4
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタ…
  • 5
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 6
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 7
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全…
  • 8
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 9
    プールサイドで食事中の女性の背後...忍び寄る「恐ろ…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 9
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中