ユダヤ教の聖典はビジネス虎の巻?
誤解が生み出したブーム
そうした流れを受けて、中国の官営メディアは、毛沢東へのインタビューで知られるジャーナリストのイスラエル・エプスタインらユダヤ人をもてはやすようになった。05年に亡くなったエプスタインの葬儀には、胡錦濤(フー・チンタオ)国家主席や温家宝(ウエン・チアパオ)首相も参列している。
中国以外のユダヤ教専門家にしてみれば、タルムードをビジネスのハウツー本として捉えるのはあり得ない話だ。
契約法や利子に関する記述があるのは確かだが、蓄財のガイドブックではないと、ユダヤ教神学院(ニューヨーク)のエリーザー・ダイヤモンド准教授は語る。「ある中国人から『金持ちになりたいので、学院の蓄財コースで教えている内容を知りたい』という手紙を受け取ったことがある。言うまでもないが、ユダヤ教神学院に大金を稼ぐ人はあまりいない」
タルムードをビジネスの奥義が学べる文献と見なす動きは無害とは言えない。関連本のうち2冊の表紙には「タルムードを読まない限り誰もユダヤ人を打ち負かせない」という、投資家ジョージ・ソロスの名言と称する文章が躍る。「ユダヤ人は弁護がうまいから、弁護士を雇うならユダヤ人にすると言う反ユダヤ主義者が世界中にいる」と、ダイヤモンドは懸念する。
ユダヤ人に会った経験がないという韓は、自身のユダヤ人観が正しいかは分からないと断りつつも、「ユダヤ人はカネそのものはよくも悪くもないと理解している」と主張する。著書は「中国ビジネスという暗い部屋を照らす」ものらしい。
韓の不満は、『タルムード解読』が自分の人生を変えたとの感想を語る実業家が現れていないこと。「この手の書籍があり過ぎるのかもしれない」
[2011年1月12日号掲載]