最新記事

中国

ユダヤ教の聖典はビジネス虎の巻?

金銭的成功の秘訣を追い求めてユダヤ教に注目するハウツー本がビジネスマンの間で大人気

2011年2月9日(水)13時47分
アイザック・ストーン・フィッシュ(北京)

 中国人にユダヤ教を信仰していると話せば、たちまちこんな反応が返ってくる。「とても頭がよくて、ビジネスにたけているんですね」

 中国人のユダヤ人観は、グーグルの国別検索キーワードランキング「グーグル・ツァイトガイスト」中国編でも明らかだ。09年版では、「なぜユダヤ人は優秀か」という質問が「なぜ」部門の4位に。「なぜ共産党に入党するべきか」に続く順位で、「なぜ結婚するべきか」を上回った(10年版のツァイトガイスト中国編には「なぜ」部門の設定はなかった)。

 おかげで、中国出版界では数年前から意外なブームが起きている。ユダヤ教を金銭的成功の源とみる「世論」に便乗して、ユダヤ教の聖典タルムードにあるビジネスの奥義を説く、という書籍が続々と出版されているのだ。

 書店の棚には、『タルムード解読──101のユダヤのビジネスの法則』や『図解付きユダヤの知恵の書』と題する書籍がずらり。ビジネス教育に対する関心が高まり、自己啓発書の売り上げも伸びるなか、ビジネス書としてタルムードを読み解く本は今や氾濫状態だ。

『タルムード解読』の著者の韓氷(ハン・ビン)は、ある大手出版社が刊行したタルムード関連のシリーズによって、移民や孤立化など「古代ユダヤ人と現代の中国人が直面する問題には共通点が多い」と気付いたと言う。

 この手のビジネス書の販売部数の統計は入手できないものの、ユダヤ研究センター(上海)の王健(ワン・チェン)副所長によれば「ものすごい人気を誇る話題の分野」だ。タルムードは「ビジネスと蓄財のためのガイドブックになっている」という。

 ユダヤ人を「金儲けの達人」と捉える中国人の見方は、強欲といった紋切り型のユダヤ人像を生み出した欧米の宗教的な敵対心とは無縁だ。

 こうした見方が芽生えたのは中国に投資家が集い始めた19世紀半ばとみられる。上海で活躍したサイラス・ハルドゥーンをはじめ、不動産王で鳴らした外国人の多くはユダヤ人だった。ユダヤ系一族出身で発電所経営やホテル業で財を成したマイケル・カドゥーリは、今や中国語圏で最もリッチな非中国人。総資産は推定50億ドルに上る。

 ユダヤ教への称賛の念は、ビジネスの枠を超えた歴史的な背景を持っている。毛沢東時代の中国で活動した欧米出身者十数人のうち約半数はユダヤ人。おかげで中国の知識層はユダヤ文化に関心を抱くようになったと、南京大学の徐新(シュイ・シン)教授(ユダヤ学)は指摘する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ヘッジファンド、銀行株売り 消費財に買い集まる=ゴ

ワールド

訂正-スペインで猛暑による死者1180人、昨年の1

ワールド

米金利1%以下に引き下げるべき、トランプ氏 ほぼ連

ワールド

トランプ氏、通商交渉に前向き姿勢 「 EU当局者が
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中にまさかの居眠り...その姿がばっちり撮られた大物セレブとは?
  • 2
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機」に襲撃されたキーウ、大爆発の瞬間を捉えた「衝撃映像」
  • 3
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別「年収ランキング」を発表
  • 4
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 5
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首…
  • 6
    【クイズ】次のうち、生物学的に「本当に存在する」…
  • 7
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 10
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 9
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 10
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中