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金融規制

スイスが教える危機克服の秘訣

2011年1月12日(水)15時11分
シュテファン・タイル(ベルリン支局長)

 スイスはほぼあらゆる面で他国より厳格だ。スイス国立銀行(中央銀行)のフィリップ・ヒルデブラント総裁が進める新計画は、危機が発生した際の損失を吸収するため、UBSとクレディ・スイスに自己資本比率を19%にすることを求めている。19年からの完全実施を目指す新たな規制「バーゼルIII」の7%の3倍近い数字だ。

スイスの金融機関は、取り付け騒ぎを防ぐために現金保有比率の拡大も求められている。09年にはいち早く、経営陣の高額報酬(成功を賭けて過度のリスクを負いたがる一因になると考えられている)を制限する新たな指針を導入した。

何より、二度と納税者を「大き過ぎてつぶせない」金融機関の人質にはしないと、ヒルデブラントは誓っている。そこで規制当局は金融機関に事業を分割させ、危機の際に事業単位で清算することで母艦の沈没を防ぐ新規制を提案。クレディ・スイスなどが既に実施し始め、ここでもスイスは独走状態だ。

世界の趨勢に流されない

 ヒルデブラントはスイス金融の将来を安泰にする功労者とたたえられているはず、と思うだろう。ところがスイスの業界紙は、ヒルデブラントのやり方は国際社会の趨勢と懸け離れていると非難している。

 世界の大手金融機関でつくる国際金融研究所は、各国が金融危機に「過剰反応」すべきではないと再三警告してきた。スイス式の厳格なルールでは自国の金融機関が不利になると懸念する国もある。ドイツやイギリスの体力のない銀行の場合、自己資本比率引き上げは血税の再注入につながりかねない。

 危機が過去のものになりかけている今、規制強化を求める圧力は弱まるかもしれない。それでも、自国の金融機関と経済と通貨の安定を素早く回復したことが何らかの手本になるなら、世界はスイスの後に続くべきではないだろうか。

[2010年12月29日号掲載]

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