最新記事

電子書籍

グーグルeBooksは本当にオープンか

グーグルの「オープン性」という売り文句は、政治家の言う「超党派」や石油会社の言う「環境配慮」と変わらない

2010年12月24日(金)12時06分
ファハド・マンジュー

 待ちに待ったグーグルの電子書店eBooksがオープンした。でも、アマゾンのそれとどこが違うのか。価格設定や割引セールのタイミングは、どちらもほとんど同じ。有力出版社はどちらとも組んでいるから、品ぞろえもほぼ同じだ。

 端末の性能も期待外れ。アマゾンのキンドルにはある「しおり機能」も辞書機能もない。

 グーグル自慢のオープンさはどうか。同社は「読書体験を自由に」するとうたっていた。だからユーザー名とパスワードさえ登録すれば「どの端末でも閲覧可能」と売り込んでいた。

 私は電子ブック市場の開放をずっと待っていた。2年前にはキンドルがこの市場をほぼ独占していて、ユーザーを強引に囲い込んでいた。今は状況が変わりつつあるが、当時はキンドル用の電子ブックはキンドル公認端末でしか読めなかった。

 では、グーグルの参入で市場はオープンになったか。いや、グーグルの言う「オープン性」は政治家の言う「超党派」や石油会社の言う「環境配慮」と同じで、中身がない。

 グーグルの電子ブックには(アマゾンのもそうだが)デジタル著作権管理(DRM)がかかっており、著作権の存続している本の回し読みや転売はできない仕組みになっている。

 ただしグーグル書店で買った本は、アドビの「コンテンツサーバ4」に対応する端末ならどれでも読める。ソニーリーダーでもiPadでもOKだ。

 では互換性でグーグル端末はキンドルに勝ると言えるのか。いや、今はアマゾンも互換性の向上に取り組んでいる。電子ブックをウェブ上で閲覧できる「Kindle for the Web」も、間もなく提供される予定だ。

「開放性」は絶対必要?

 ただし、キンドル書店で買った本はアドビの方式を採用した端末では読めない。グーグル書店で買った本も、キンドル端末では読めない。キンドルが市場の約半分を牛耳っている現状からすれば、グーグルは苦しい。

 グーグルの電子ブックは一部の一般書店でも買える。だが、これも開放性の証拠にはならない。どこで買っても値段は同じ。売り上げの一部は書店に入るが、「Kindle for the Web」でもその点は同じだ。

 筆者とてグーグルを責めるつもりはない。著作権保護を求めているのは出版界だし、グーグル用の電子ブックをキンドルで読めないのはアマゾンの排他的な方針のせいだ(かつてのアマゾンはもっと「オープン」だったと思うのだが)。

 しかし、グーグルも大して「オープン」ではない。もちろん、何でもオープンにすればいいとは限らない。

 グーグルは携帯電話向けOS「アンドロイド」の発表に当たり、アップルのiPhoneよりも「オープン」だと宣伝した。正当な主張である。グーグルはOSのソースコード(基本設計情報)を公開し、端末メーカーに加工を許し、アプリ配信にも制限を設けなかった。

 対してアップルCEOのスティーブ・ジョブズは、「オープン」にしても品質は向上しない、第三者の手が加わればインターフェースは醜くなり、魅力が失われると言い放った。

 結果はどうか。ソフト開発に関する縛りがきついアップルのほうが多数の人気アプリを生み出しているし、売り上げも多い。

 要するに「オープン」さは絶対的な強みにならない。そもそも消費者は、オープンさで製品を選ぶわけではない。

 グーグルの電子ブック市場参入で競争が増えるのはいい。だが半ば閉じているものを「完全にオープン」と宣伝するのは欺瞞だ。他社と差別化したいなら、競うべきは品ぞろえや価格、機能やレビューの充実だろう。

Slate.com特約

[2010年12月22日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米ロ首脳は2月末までに会談可能、ロシア報道官が高官

ワールド

ベトナム、25年成長率目標8%以上に引き上げ 中国

ワールド

焦点:欧州、独力でのウクライナ平和維持は困難 米の

ビジネス

インドネシア中銀、予想通り金利据え置き 緩和サイク
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 2
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「20歳若返る」日常の習慣
  • 3
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防衛隊」を創設...地球にぶつかる確率は?
  • 4
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    1月を最後に「戦場から消えた」北朝鮮兵たち...ロシ…
  • 7
    祝賀ムードのロシアも、トランプに「見捨てられた」…
  • 8
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 9
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 10
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 1
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 2
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だった...スーパーエイジャーに学ぶ「長寿体質」
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 5
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 6
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 7
    【徹底解説】米国際開発庁(USAID)とは? 設立背景…
  • 8
    週に75分の「早歩き」で寿命は2年延びる...スーパー…
  • 9
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 10
    イスラム×パンク──社会派コメディ『絶叫パンクス レ…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 9
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中