最新記事

中国

「自殺」工場賃上げは手始めに過ぎない

2010年6月16日(水)17時14分
キャスリーン・マクローリン

 従業員の相次ぐ自殺が問題になった中国の台湾系電子製品メーカー、富士康(フォックスコン)は事態収拾に躍起になっている。同社は6月7日、自殺問題が起きた広東省深!にある工場の一部労働者の基本給を10月から月2000元(約2万7000円)へと、約65%引き上げると発表した。

 中国が低賃金システムで「世界の工場」の地位を確保してきた時代は、もう終わるのだろうか。

 富士康はアップルやソニー、モトローラなど世界の一流メーカーの製造を請け負う企業だ。その工場で起きた自殺問題は中国の劣悪な労働状況の実態を明らかにし、世界中の人々の関心を呼んだ。

 中国の工場における賃上げは世界の製造コスト全体に影響を及ぼす。そのため、賃金問題はこれまでも論議の対象になってきた。

寮住まいで私的時間も制限

 賃金アップが必要なことは間違いない。工場労働者の賃上げ率はここ10年間、物価上昇率を下回っている。香港に拠点を置く労働者の人権保護団体、中国労工通報のジェフリー・クロソールは「労働者がわずかな賃金増でなく、大幅な賃上げを要求してもおかしくない」と語る。クロソールは今回の富士康による劇的な賃上げは、ほかの工場で働く労働者を刺激するだろうとみている。

「経済が復調して経営者が儲けているのに、労働者は同じ低賃金でさらに長時間働かされている」とクロソールは言う。「賃上げを要求するのは当然だ」

 もっとも、賃上げだけで労働者の置かれた状況を改善できるわけではない。出稼ぎ労働者の基本的人権に目を向け、生活環境や社会福祉を見直すことが不可欠だ。彼らのほとんどは出稼ぎ先で医療保険や教育の権利を得られず、工場の寮に住むことで私的な時間も制限されている。

 そろそろ賃金だけでなく人権が問題になり始めてもおかしくない。

GlobalPost.com特約)

[2010年6月23日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

法人企業統計、7─9月期設備投資は前年比2.9%増

ビジネス

ハセットNEC委員長、次期FRB議長に指名なら「喜

ワールド

英財務相、予算案巡り誤解招いたとの批判退ける 野党

ワールド

トランプ氏、ホンジュラス前大統領を恩赦へ 麻薬密売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業界を様変わりさせたのは生成AIブームの大波
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    メーガン妃の写真が「ダイアナ妃のコスプレ」だと批判殺到...「悪意あるパクリ」か「言いがかり」か
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    「世界で最も平等な国」ノルウェーを支える「富裕税…
  • 6
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 9
    中国の「かんしゃく外交」に日本は屈するな──冷静に…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 5
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 8
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中