最新記事

エネルギー

海の底に眠る石油を探せ!

深海油田の開発がついに現実のものになり始めた。環境保護派の懸念を尻目に石油会社は投資を急ぐ

2010年5月24日(月)15時02分
マシュー・フィリップス

最前線 ルイジアナ州沖のメキシコ湾にあるシェブロンの海底油田プラットホーム Jessica Rinaldi-Reuters

 メキシコ湾の上空約500メートルを飛ぶヘリコプターから見下ろすと、海底油田のプラットホームがおもちゃのように見える。ニューオーリンズ沖はプラットホームが点在する油田地帯になっている。

 だが80キロほど岸を離れるとプラットホームは姿を消す。この先はメキシコ湾の深海域だ。水深は約2400メートルに達する。海底は分厚い泥の層で覆われ、その下に横たわるのは厚さ数千メートルの岩塩層。そのさらに下に推定数百億バレルの石油が眠っている。

 ヘリコプターから広大な海原に目を凝らすと、かなたに人工の構造物が見える。岸から約300キロ離れた地点に米石油大手シェブロンが造ったプラットホーム「タヒチ」だ。

 比べる物がないので遠くから見ると小さく思えるが、近づくにつれて3層構造のプラットホームの巨大さに驚かされる。高さは約220メートルで重さは3万6000トン以上。水深1200メートルの海に70階建ての高層ビルが浮かんでいるようなものだ。

 プラットホームに降り立って最初に気が付くのは、海底から石油をくみ上げる機械の規則正しい音だ。シェブロンには世界一美しい音に聞こえるだろう。同社やBP、エクソンモービルなどの石油メジャーにとって、この音は10年がかりの深海油田プロジェクトへの投資が実を結びつつある証拠だ。

 度重なるハリケーンの被害によってメキシコ湾の石油生産量は7年連続で減少している。だが深海プロジェクトのおかげで、09年の生産量は前年比でプラスに転じた。全米の石油生産量に関しても、今年は91年以来初めて前年比でプラスになる可能性がある。

 折しも、バラク・オバマ米大統領は外国産石油への依存度を減らそうとしている。当面の目標はアメリカ人の石油消費量の半分以上(1日当たり約1000万バレル)を国内産で賄うこと。だが国内の1日当たり石油生産量が70年に比べて半減していることを考えると、かなりの難題だ。

 シェブロンなど石油メジャーは、アメリカがエネルギー自給率を高める上でカギを握るのは海洋油田だとみている。現在アメリカではテキサス州やアラスカ州など陸上の油田での産油量が約3分の2を占めているが、こうした油田の生産量は減少傾向にある。

 米政府の推定では、メキシコ湾の石油埋蔵量は約700億バレル(うち深海の未確認油田の分が400億バレル)。海岸線から4・8キロより外側にある外縁大陸棚を含めて考えれば、アメリカの沿岸の未確認油田に850億バレル以上(現在のアメリカの石油消費量の10年分以上)の原油が眠っているとされる。

 採掘が簡単な油田が世界中で減っている今、数年前なら検討もされなかった場所で探査が行われるようになった。例えばグリーンランドのいてつく海、オリノコ川流域(ベネズエラ)の熱帯雨林、ガーナ沖の深さ1200メートル以上の深海などだ。

環境破壊を懸念する声も

 ブラジルの国営石油会社ペトロブラスは09年、ブラジル沖約300キロの深海油田で採掘を開始した。これはイギリスの面積を上回る広大な油田で、埋蔵量は95億〜150億バレルとされる。

 だがアメリカの場合、海底油田の開発を大規模に推進するためには反対派を説き伏せる必要がある。環境保護活動家は、石油の代わりに再生可能エネルギーを利用すれば、エネルギーの自給は可能だと言う。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

米国務省、ロシア攻撃で米の利益損なわないよう警告 

ビジネス

ワーナー、パラマウントと交渉へ 1株31ドルの新提

ビジネス

FRB当局者2人、当面の金利据え置き示唆 現行策「

ビジネス

米ホーム・デポの第4四半期利益、予想を上回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    3頭のクマがスキー客を猛追...ゲレンデで撮影された…
  • 5
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    「IKEAも動いた...」ネグレクトされた子猿パンチと「…
  • 8
    「極めて危険」──ゼレンスキー、ロシアにおける北朝…
  • 9
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 10
    武士はロマンで戦ったわけではない...命を懸けた「損…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 5
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 8
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 9
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 10
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中