うわべの景気回復に油断は禁物
再発したインフレが、世界を牽引する新興国を脅かしかねない
ほとんどの経済アナリストにとって、過去は現在だ。彼らは過去に現在との類似点を見つけたがる。そして今年は04年にそっくりだという見方が彼らの間で支配的になっている。
確かに04年も今年と同じように、世界経済は回復に向かい始めて2年目を迎えていた。中国経済は今と同じように過熱気味で、当局は金融引き締めに動いていた。
04年前半は不安定な時期が続いたが、中国でのインフレ懸念が収まり、世界経済が順調な回復を続けた結果、金融市場にとっては比較的穏やかな1年となった。今年もそれと同じような展開をたどると、経済アナリストは予測する。
しかし歴史が繰り返すように思えるのは歴史の細部を知らないからだ。
04年は経済の足腰が強かった
04年の世界経済の基盤は今よりはるかにしっかりしており、中国のどんな金融引き締め政策にも耐えられた。世界の経済成長率は平均5%、先進国は完全に回復基調だった。それに比べて今年は、世界経済の回復ぶりにははるかにばらつきがあり、成長のペースも年間3・5%弱と遅い。
さらに04年の場合は、欧米向けの輸出が好調だった。おかげで中国は、国内の景気が減速しても9%台の成長を維持することができた。しかし今年は、先進国は当てにできない。
それどころか、今では中国をはじめとする途上国経済が、世界経済の牽引力となっている。世界経済を失速させないためには、途上国経済は03〜07年の好況期と同じ平均7%の成長を維持する必要がある。
平均7%成長という目標を達成する上で、根本的な障害となるのはインフレだろう。多くの新興国では、インフレが再発するのがあまりにも早過ぎた。世界的に生産能力がだぶついていることを考えればなおさらだ。
1次産品価格の上昇は、需要の増大で説明できる水準をはるかに超えている。食料品とエネルギーの価格(途上国では普通、消費支出の3分の1を占める)は早くも07年のレベルに戻っている。
こうした商品価格の上昇は総合インフレ率(物価上昇率)を押し上げるだけではない。いずれは途上国経済の他の項目にも波及するのが普通だ。ほとんどの新興国では10年半ばまでに、総合インフレ率もコアインフレ率(食料品とエネルギーを除く物価上昇率)も06年の水準に達するだろう。06年といえば、新興国の好況が4年目に入り、世界経済の力強い回復が3年目を迎えた年だ。
商品市場に群がる投資家
世界経済は昨年から引き続き標準以下の回復にとどまっているのに、なぜ商品価格がこれほど急上昇したのだろうか。一部の市場アナリストは、中国の急激な需要増大と関係があるという、いいかげんな説明を広めている。
しかし、そうした説を裏付ける事実はない。中国の需要が根強いのは間違いないが、世界的な需要は低迷したままだ。そのため、アルミニウムから石油まで、ほぼすべての商品で在庫が数十年ぶりの高い水準に膨れ上がっている。
むしろ、商品価格の不可解な急上昇は、世界的に金利が非常に低く抑えられていることによるもの、と考えるほうが妥当だろう。投資家は金融危機後の低金利に勢いづき、有形資産の獲得に熱心になっている。昨年は商品ファンドに500億ドル以上を投資した──好況に沸いた03〜07年の平均の3倍を超える額だ。
商品価格の急上昇が低金利と関連していることは、最近の商品価格の下落が証明している。中国など新興国の中央銀行が金融引き締めをちらつかせたのを受けて、商品価格が反射的に下落したのだ。04年にも中国は金融引き締め政策を実施してインフレの進行を抑制したが、その代償として国内の景気低迷がしばらく続いた。