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トヨタを待ち構える米議会の用意周到

トヨタの元弁護士が議会に内部文書を提出し、組織的に事実を隠蔽していると主張。公聴会での厳しい追求は必至だ

2010年2月23日(火)19時17分
マシュー・フィリップス

吊るし上げ? 豊田章男社長が出席する公聴会では、安全問題だけではなく情報公開に関する疑惑も厳しく追及されることになりそうだ Jonathan Ernst-Reuters

 トヨタ車の安全問題に対する米議会の態度は、まるで獲物を見せしめにしているかのようだ。しかし23日から開かれる一連の公聴会は、単に公の場で恥をかかせるというだけでは終わらないだろう。

 公聴会ではリコール危機の今後数カ月の展開を決める、極めて重要な見解がもたらされる可能性がある。フロアマット問題による07年のリコールでは台数を5万5000台に抑えたことで1億ドルを節約したと誇るようなトヨタの内部文書が明るみに出ている。

 米下院監視・政府改革委員会は22日、約5000通の文書の調査を開始。トヨタは約2年にわたってこれらの文書を隠し続けてきたが、同委員会が18日に提出を要請。文書はトヨタの元弁護士ディミトリオス・ビラーが所有するもので、300件以上の横転事故に関する安全面での欠陥の証拠を、トヨタが組織的に隠していたことを示すものだとビラーは主張する。

 委員会が文書を開示すれば、問題収拾を図るトヨタに大きな痛手を与えかねない。世界最大の自動車メーカーへの訴訟を準備する全米中の弁護士も、血の臭いをかいだサメのように群がるだろう。

 トヨタは文書の非公開を守った理由を、弁護士と顧客間の機密特権で守られるべき情報や企業秘密が含まれていたためだとする。公開によるダメージについてはコメントしてはいないが、トヨタは明らかに今回の公聴会を真剣に受け止めている。最近では政治的な支持を得るために、ワシントンでのロビー活動にも力を入れ始めた。

 ビラーは横転事故を扱うトヨタの主席弁護士だったが、同社が原告側弁護士の求める文書を隠蔽、さらには破棄するという「犯罪行為」を犯したと主張して07年に職を離れた。その後1年以上も同社との法的闘争を続けている。

トヨタを告発してきた元弁護士が伏兵に

 トヨタが最初にビラーを告訴したのは08年。彼に370万ドルの退職手当を支給した際に交わした、秘密保持契約の違反が理由だった。ビラーが自身のセミナーで機密情報を漏らしたとして、3350万ドルの賠償金を請求した。

 09年7月にはビラーが逆提訴。トヨタの証拠隠滅は犯罪的陰謀に相当するとして、組織犯罪取締法の適用を求めた。

 セミナーでの1件については、トヨタが2人の弁護士を雇ってビラーのセミナーに送り込み、意図的に同社に関する質問をさせたとビラーは主張している。

 ビラーの弁護を務めるジェフ・ホールは「退職時の合意には違反していないし、セミナーに出席した弁護士はトヨタの依頼を受けたことを隠していた」と言う。「彼らはビラーに嘘をついた。これはおとり捜査だ」

 トヨタはセミナーに2人の弁護士を出席させたことを認めているが、それは法的な権利の範疇だとした。裁判所は2つの訴訟を一元的に扱い、トヨタの訴えを認めてビラーの組織犯罪取締法違反の主張を退けている。

 一方でビラーの逆提訴は多くの訴え、特に彼がトヨタの弁護を務めた訴訟の再提訴を招いている。

 その1つは、05年に97年型カムリがテキサス州フォートワースで横転事故を起こしたケース。屋根がつぶれて当時20歳だったペニー・グリーンは四肢麻痺になった。彼女は06年に最初の訴訟を起こし、トヨタがカムリの屋根の強度テストや評価に関する文書の一部を提出して和解していた。

 この件でトヨタの弁護を務めたビラーは、トヨタ社員である上司から証拠を隠すよう指示されたと主張。証拠の中には、全トヨタ車が屋根の強度に関する安全要件を満たしていないことを示すテスト結果もあったと、ビラーは言う。トヨタはこれを否定している。

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