最新記事

アメリカ経済

それでもオバマは危機を防げない

米政府が打ち出した金融規制改革は一見素晴らしいが、将来の危機を防ぐ万能薬にはなり得ない

2009年6月30日(火)19時20分
ロバート・サミュエルソン(本誌コラムニスト)

ドルを守れるか 金融業界を規制しても防ぎきれない危機はある Mark Blinch-Reuters

 建国初期以来、アメリカは金融危機に繰り返し見舞われてきた。最初の危機は1792年にさかのぼる。19世紀には銀行パニックが頻繁に起きた。そして1929年には株価が大暴落。大恐慌で全米の銀行の4割が破綻した。

 私たちは今、新たな危機の真っただ中にいる。オバマ政権の金融「改革」にしろ、ほかのどんな政策にしろ、過去のような経済崩壊を永遠に阻止できるのなら安心できるだろう。そんな夢のような話があるものか。

 すべての金融危機は想像力の欠如から起きる。危機の前に誰も「過剰」や損失といった問題を予測しないというわけではない。ふつう予兆はある。だがいつも見逃されるのは、そうした問題をパニックへと変貌させる部分だ。将来の見通しが暗くなるから人々はパニックに陥る。何が起きるか予測できないから、最悪の状況を予測する。市場は抑えきれずに下落していく。

 現在の危機が起きたのは、単にサブプライムローンが予想外の大損失を出したためではないし、こうしたローンの多くが複雑に証券化されたためでもない──エール大学の経済学者ゲーリー・ゴートンはそう語る。問題の核心は、「レポ市場」の失敗だとゴートンは言う。

 レポ(リパーチェス・アグリーメント)とは買い戻し条件付き債券取引のこと。担保(普通は債券)と引き換えに短期融資(普通は翌日返済)を受ける。借り手は融資を返済するときに債券を買い戻す。

オバマ金融改革3つの肝

 レポ市場の規模は誰にもわからない。ゴートンは10兆ドル規模だとみている。銀行はレポ取引による融資に大きく依存し、日常的に借り換えていた。だが銀行のサブプライム関連証券に不安が生じると、レポ市場はパニックに突入。融資が消滅したり金利が高くなったりした。
 
 その結果、投資銀行のベアー・スターンズとリーマン・ブラザーズが破綻。ほかの金融機関も脆弱(ぜいじゃく)になった。誰もパニックを予想していなかった。パニックが起きた瞬間、莫大な──だが耐えられる程度の──損失が危機に変貌した。

 危機の最中では、政府が金融の完全崩壊を食い止める最後の防波堤になる。それが規制を正当化する最大の理由だ。すべての危機を阻止できるわけではないにしても、いくつかの危機は防げなくはない。オバマ政権の金融規制改革案は複雑だが、基本的に3つの点で規制を拡大する。

 第1に、FRB(連邦準備理事会)の権限を強化して、破綻したら「金融市場の安定を脅かす」ほど重要な金融機関(恐らくシティグループやゴールドマン・サックスなど)を指定させる。これらの金融機関には厳しい自己資本比率規制が課される(自己資本は主に株主による投資)。資本増強は損失や危機に対する強力な緩衝材になる。

 第2に、消費者金融保護庁を設立。倫理にもとる融資慣行を監視し、住宅や自動車など消費者向けローン契約書が理解しやすく書かれるよう指導する(証券取引委員会=SEC=は株式市場に対する権限を保持する)。

 第3に、金融市場に関する規則を改定する。例えば住宅ローンや自動車ローンなどを証券化した債券を発行する金融機関は、その債券の5%の保有を義務付ける。そうすれば、金融機関は証券化商品の裏付けとなる融資をより慎重に審査するようになるという。

最大の問題は想像力の欠如

 これらの提案は合理的に見えるが、いつつかの問題をはらんでいる。アメリカン・エンタープライズ研究所のピーター・ウォリソンはウォールストリート・ジャーナル紙に寄稿し、大手金融機関が政府の庇護のもとで守られ甘やかされると主張。「大手が中小を締め出すことになる」と書いた。

 消費者を守る規制は素晴らしいことに思える。だが保護規定が複雑でコスト高につながれば、貸し手は金利を引き上げるか安全な借り手だけに貸すようになるだろう。そうなれば消費者向けローンはかえって割高になる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請件数は横ばいの21.3万件、労働

ワールド

トランプ大統領、イラン次期指導者の選出に「関与する

ビジネス

EXCLUSIVE-NATO、集団的自衛権行使の協

ビジネス

米インフレと雇用改善、FRBのリスク見通しを変更も
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 2
    「え、履いてない?」モルディブ行きの飛行機で撮影された、パイロットの「まさかの姿」にSNS爆笑
  • 3
    「イランはどこ?」2000人のアメリカ人が指差した場所にSNS震撼「自国の場所すらわからない」
  • 4
    対イラン攻撃に巻き込まれ、湾岸諸国が存立危機
  • 5
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 6
    「ハリポタ俳優で終わりたくない」...ハリー・メリン…
  • 7
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 8
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「旅客数が多い空港」ランキン…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 7
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 8
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 9
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 10
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中