最新記事

先進国がデフォルトする日

ソブリンリスク危機

アメリカや日本にも忍び寄る
ギリシャ型「政府債務信用不安」の実相

2010.07.05

ニューストピックス

先進国がデフォルトする日

次第に現実味を帯びてきた債務不履行。日米などが借金を続けられるのは、投資家の信認が保たれている間だけだ

2010年7月5日(月)12時09分
ロバート・サミュエルソン(本誌コラムニスト)

 先進国の政府が貸し手に「借りた金は返さない」と宣言する事態が起き得ると聞かされても、少し前なら誰も信じなかっただろう。アルゼンチンやロシアならともかく、まさかアメリカや日本やイギリスに限ってそんなこと......。

 その「まさか」がすぐに起きるとは思わないが、あながちあり得ない話とは言い切れなくなってきた。裕福な国々の政府が多額の借金を続けているので、「貸し手は将来も貸し出しを続け、政府はこれからも借金返済を続ける」という前提が崩れる日が訪れるかもしれない。

 そんな事態に陥ったら世界にどんな影響が及ぶだろう。歴史を振り返っても、ほとんどヒントは見つからない。この疑問を考える上で重要なのは人間の心理だ。 

 別の大きな問題を元に考えてみよう。ドルが市場の信認を失って売られ、円やユーロ、金、原油が買われるという懸念が広がったらどうなるか。ドル安を恐れた多くの投資家が売りに走ることでドルの価値が低下し、アメリカの株式や債券の投げ売りが起こるかもしれない。

 こうした指摘は昔からあったが、実際には起こらずに済んでいる。これまでのドル安には秩序があった。アメリカの政治的安定や巨大な富、低インフレ率などのおかげで、ドルは堅い信認を維持してきた。だがいつの日か何かの拍子で信認が崩壊する可能性はある。

 政府債務もドルと同様、微妙な心理的バランスの上で秩序を維持している。

 いい例が日本だ。09年の財政赤字のGDP(国内総生産)比は単年度で10%か、それを上回る。債務残高のGDP比は200%に近づいている。

日本で起きた異常な現象

 日本では経済の伸び悩み、度重なる景気刺激策、社会の高齢化、世界的な景気後退を背景に借金が膨らんできた。19年には債務残高のGDP比は300%になり得ると、米金融大手JPモルガン・チェースは予想する。

 この数字をどう考えたらいいのか。20年前に誰かが、日本の債務がこれほど膨張するとの予想を発表したら、こんな懸念が広まっただろう。「赤字はもう手に負えないレベルだ。日本政府が高リスクに見合う高い利息を付けない限り、貸し手は見つからないだろう。債務不履行(デフォルト)に陥るか、政府が高インフレを起こして債務を軽減する恐れがあるからだ」

 だが実際には逆のことが起きた。日本の投資家がその借金の94%を引き受けたのだ。日本国債10年物の利回りは90年には7・1%だったが、今では1・4%まで下がっている。

 一応の説明はなんとでもつく。日本は個人の貯蓄率が高く国債の買い手はごまんといる。デフレ気味で物価が下がっているので、低い利回りでも受け入れられる。投資家は新規発行分も発行済みの国債もきちんと償還されるとまだ信じている......。

 だが今までうまくいったからといって、日本やアメリカなど先進国政府が好きなだけ借金できると考えるのは誤りだ。好きなだけ借りられるのは投資家の信認が保たれている間だけ。その信認はいつか消え去るかもしれない。

 先進国はどこも似たようなジレンマに直面している。借金は危険な水準を超えてさらに膨れ上がっている。

 米議会予算局がオバマ政権の予算案を基に推計したところ、連邦政府の債務残高の対GDP比率は08年末の41%から19年末には82%になる。09年には1700億ドルだった支払い利息は、19年には7990億ドルに増える見込みだ。

債務不履行の危険な魅力

 とはいえ、赤字を減らすために支出削減や増税に動けば、国民に痛みを強いることになる。かえって経済を弱体化させ、赤字を増やす結果になりかねない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=続伸、マグニフィセント7などの決算に

ビジネス

NY外為市場=円、対ユーロで16年ぶり安値 対ドル

ビジネス

米テスラ、新型モデル発売前倒しへ 株価急伸 四半期

ワールド

原油先物、1ドル上昇 米ドル指数が1週間ぶり安値
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 10

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中