最新記事

アメリカは欧州経済の道連れになるか

ソブリンリスク危機

アメリカや日本にも忍び寄る
ギリシャ型「政府債務信用不安」の実相

2010.07.05

ニューストピックス

アメリカは欧州経済の道連れになるか

最も警戒しなければならないのは、恐怖心の空気感染で金融のインフルエンザが広がることだ

2010年7月5日(月)12時01分
ダニエル・グロス(ビジネス担当)

 景気は上向いてきたが、安心もしていられないというのが世間の実感だろう。

 この春、アメリカの就業者数はようやく少しずつだが増加に転じた。だが今、ヨーロッパを揺るがしている問題(アメリカをノックアウトした08年の信用危機をほうふつとさせるものも含まれる)が、アメリカの株式市場や経済全般に大きな打撃を与えるのではとの懸念が生まれている。

 たしかに心配すべき理由がないわけではないが、パニックになる必要はない。今回のヨーロッパの問題はアメリカにとって、短期的にはいい面もある。

 例えばフランスのニコラ・サルコジ大統領は1月、経済におけるアメリカのリーダーシップは終わったなどと豪語していた。だが今ではすっかり高慢の鼻も折られたことだろう。もっとも将来的には、アメリカへの悪影響も考えられる。

 今回のヨーロッパの問題は国債市場から始まった。財政赤字がふくれあがり資金繰りが苦しくなったギリシャやスペインやポルトガルは市場の信認を失った。信用市場は突如、これらの国々の財政が立ち直ることを期待しなくなってしまった。

 欧州中央銀行(ECB)や国際通貨基金(IMF)から支援を受ける条件として、ギリシャは歳出削減と増税を受け入れた。スペインとポルトガルも後に続こうとしている。

 ECBが拡張的な金融政策を続けている一方で、EU(欧州連合)加盟国の中には緊縮財政策を採る国が少なくない。その結果、ヨーロッパ大陸における経済成長は壁にぶつかっている。

アメリカへの好影響もなくはない

 ヨーロッパ経済の成長が止まれば、ヨーロッパ企業の株にとっても世界経済にとっても困ったことになる。欧州は非常の多くの商品やサービスを消費しており、その多くは輸入されたものだ。

 だがアメリカにとってはいい部分もある。欧州経済の失速に原油市場は真っ先に反応、先月に比べて20%も下落した。

 ケリー・エバンスは25日のウォール・ストリート・ジャーナル紙にこう書いた。「(原油価格が)1バレルあたり10ドル下落すれば、(アメリカの)一般世帯は(合計で)年に200億ドルの光熱費を節約できる」

 多難な時期にはありがちなことだが、世界中の投資家がアメリカ国債に殺到している。こうした動きは利回りの低下を招く。この数週間の間に10年物米国債の利回りは4%から3.16%に下落した。そうなれば住宅ローンの利率も下がる。

 ユーロに対してドルが上がれば、イタリア産ワインやフランス産チーズのファンや旅行者には朗報だ。

 だが一方で悪影響もある。ドル高ユーロ安は輸出(回復基調にある米経済の中でも順調な分野で、09年3月から今年4月までの間に21・6%も成長した)にとっては痛手だ。

 最新の貿易統計によれば、アメリカからの輸出の23%がヨーロッパ向けで、EU加盟国向けは19%に達するという。欧州の危機は大西洋の向こうに製品を輸出しているアメリカ企業にとっては頭の痛い問題だ。ユーロ安のせいで自社製品と競合するヨーロッパ産の製品が突然、安くなってしまったのだから。

怖いのは信用不安の波及

 ヨーロッパの危機によってアメリカの実体経済が直面している脅威は対処可能なものだ。もちろん欧州危機はアメリカの金融経済にとっては脅威だし、実体経済への波及も考えられるから注意は必要だ。

 ロイター通信によれば「ゴールドマン・サックスの推計ではアメリカの金融機関のギリシャ、ポルトガル、スペインの国債の保有残高は900億ドル」だという。アメリカの大手金融機関にとってはそれほど大きな額ではない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国主席、APEC首脳会議で多国間貿易保護訴え 日

ビジネス

米国株式市場・序盤=ナスダック1.5%高、アップル

ビジネス

利下げでFRB信認揺らぐ恐れ、インフレリスク残存=

ビジネス

ECB、金利変更の選択肢残すべき リスクに対応=仏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 5
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 6
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 7
    海に響き渡る轟音...「5000頭のアレ」が一斉に大移動…
  • 8
    必要な証拠の95%を確保していたのに...中国のスパイ…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 7
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 8
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 9
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 10
    熊本、東京、千葉...で相次ぐ懸念 「土地の買収=水…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 8
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 9
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中