最新記事

イラン大統領選めぐって大騒乱 

ウラ読み国際情勢ゼミ

本誌特集「国際経済『超』入門」が
さらによくわかる基礎知識

2010.04.19

ニューストピックス

イラン大統領選めぐって大騒乱 

6月12日の大統領選で現職アハマディネジャドが「圧勝」すると、抗議する市民が首都テヘランの路上に連日繰り出し、多くの犠牲者を出しながらも政権を揺さぶった

2010年4月19日(月)12時09分
クリストファー・ディッキー(中東総局長)

 イランの最高指導者アリ・ハメネイ師がかつて愛した詩は、こんな1節で始まる。「おまえが挨拶しても答えは返って来ない。おまえの呼び掛けに答えるため、あるいは友人の顔を見るために、顔を上げる者は1人もいない」

「冬」と題されたこの詩が書かれたのは王制時代の1950年代。理想に燃えるイスラム教シーア派の若手宗教指導者だった当時のハメネイは、作者メフディ・アハバーン・サーレスの強烈な疎外感と不満を共有していた。

 詩人はこの作品で、社会に深く根ざした強権的な圧政の実態を鮮烈な隠喩で表現している。

おまえが胸から吐き出した息は
黒い雲に姿を変え
壁のように目の前に立ち塞がる

 そしてテヘランの通りが熱い興奮で包まれた2009年6月、多くのイラン人の目に冷酷な体制の象徴として映ったのは──ほかならぬハメネイ自身だった。
 
 今のイランで繰り広げられているのは、単に圧政や自由に関する戦いではない。巨大な人の波となった抗議のデモ隊は、現体制を覆したわけではないし、それを狙っていたわけでもない。

 だが王制を打倒したイスラム革命から30年、抗議の波はイランの政治風景を一変させた。人々の抗議活動は、神権政治(統治者が神の代理者として絶対権力を主張して支配する政治形態)の頂点に立つ宗教指導者の権威を著しく低下させた。その原因の多くは、最高指導者のハメネイにある。

 過去のあらゆる革命がそうだったように、今回の事態も人間の意思とビジョン、野心と恨み、街頭のデモ隊と殉教者、舞台裏での権謀術数が複雑に絡み合っている。当局の検閲をかいくぐって送られてくる携帯電話の動画には、さまざまな光景が映し出されていた。

 テヘランの通りを静かに、だが決然と進むデモ隊の列。警棒を振り回す民兵組織のオートバイ。時折発生する暴力行為。当惑気味にほほ笑みを浮かべるマフムード・アハマディネジャド大統領の画像は、もはやすっかりおなじみになった。今回の危機のきっかけは、現職候補の「圧勝」とされた6月12日の大統領選挙だった。

 群衆のはざまには、大統領選の対立候補だったミルホセイン・ムサビ元首相のポスターも見える。改革を求める人々にとって、今やムサビは希望の象徴になった。

 だが目まぐるしく変わる万華鏡のような画像の洪水の中で、国営テレビに登場したハメネイの映像は静かな幕間劇のようだった。欧米の人間には、イランの最高指導者といえば故ルホラ・ホメイニ師の厳しい表情が強く印象に残っている。それに比べ、後継者のハメネイは影が薄く見える。

ホメイニ流の強硬な演説

 テレビのハメネイからは、カリスマ性がほとんど感じられない。実際、就任当初はたまたま最高指導者に選ばれただけで、適任者が現れるまでの「つなぎ」にすぎないという声もあった。
 
 それから20年、ハメネイは最高指導者の地位を守ってきたが、その秘訣は個人の資質でも宗教上の権威でもない。ハメネイの武器は派閥間のバランスをうまく取りながら、自分を派閥争いから超然とした存在に見せ掛けることだった。

 アハマディネジャドの大統領就任後の4年間、ハメネイは国内世論を2分するこの人物を全面的に支えてきたという批判もある。「長いこと権力の座にいる人間は誰でもそうだが、ハメネイもほめたたえられるのが好きだ」と、40年以上前からハメネイを知るイラン人の政治家は匿名を条件に語る。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、FRB次期議長の承認に自信 民主党の支

ワールド

エプスタイン文書追加公開、ラトニック・ウォーシュ両

ワールド

再送-米ミネソタ州での移民取り締まり、停止申し立て

ワールド

移民取り締まり抗議デモ、米連邦政府は原則不介入へ=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 2
    関節が弱ると人生も鈍る...健康長寿は「自重筋トレ」から生まれる
  • 3
    世界初、太陽光だけで走る完全自己充電バイク...イタリア建築家が生んだ次世代モビリティ「ソラリス」
  • 4
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 5
    中国がちらつかせる「琉球カード」の真意
  • 6
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 9
    【銘柄】「大戸屋」「木曽路」も株価が上がる...外食…
  • 10
    「着てない妻」をSNSに...ベッカム長男の豪遊投稿に…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 3
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界でも過去最大規模
  • 4
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
  • 5
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 6
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化は…
  • 7
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 8
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    秋田県は生徒の学力が全国トップクラスなのに、1キロ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 10
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中