最新記事

マイケル・ジャクソン死去

本誌が選ぶ10大ニュース

イラン、インフル、ノーベル賞・・・
2009年最もお騒がせだったのは?

2009.12.22

ニューストピックス

マイケル・ジャクソン死去

「スリラー」などの世界的ヒット曲で知られるマイケルが6月25日に急死した

2009年12月22日(火)12時09分
デービッド・ゲーツ


ネバーランドを探して

若くして伝説となり、人種差別というアメリカン・ホラーの中で苦しみ抜いたキング・オブ・ポップ


 本当だ。短い間だったけれど、マイケル・ジャクソンは本当の「キング・オブ・ポップ」だった。そしておそらく、最後のキング(王様)となるのだろう。

 古くはフランク・シナトラが「王様」だった。エルビス・プレスリーも、ビートルズも「王様」だった。しかしマイケル以後は、音楽ジャンルの極端な細分化が進んでしまった。どんなにカリスマ的な人気の持ち主も、もはやジャンルを超えてすべて人の心を動かす「王様」にはなり得ない。

 その絶頂期にはブログも携帯メールもなかったが、マイケルの訃報が伝えられると、アメリカの簡易ブログ・サービス「トゥイッター」にはサーバーが落ちるくらいの書き込みが殺到した。

 マイケルが音楽界の「王様」だったのは80年代のこと。82年に発表したアルバム『スリラー』の売り上げ枚数は史上最高で、いまだに破られていない。しかもマイケルは、そのずっと以前から、自らの思い描く自己イメージをひたすら演じていた。

 まだ幼さの残る時期からジャクソン・ファイブのリードボーカルとなったマイケルは、その天使のようなメゾソプラノで、意味も知らずに性的な欲望を歌い上げていた。大人になってからも、マイケルは性的存在としての男のリアリティーを欠いていた。声の高さもあるが、なんだか生身の人間のように見えなかった。

 中年期に入ると、マイケルは意図的にピーターパンを、つまり「永遠の子供」を演じ始めた。広大な敷地の邸宅を遊園地に変えて「ネバーランド」と呼び、「友達」と称する子供たちを住まわせた。そして縮れた髪をストレートにし、美容整形手術も受け、不老不死で両性具有の肉体を手に入れた──と信じようとしてもいた。

 悲惨だったに違いない幼い頃の記憶を消し去るために、マイケルは別なリアリティーを必要とし、それを築き上げた。それが彼の音楽であり、彼の仮面なのだ。

心の成長が止まった大人

 マイケルのやってきたことの多くは象徴的だ。インディアナ州ゲーリーの黒人居住区に生まれた少年が、あのプレスリーの娘リサ・マリーと結婚した。そしてプレスリーのグレースランドに対抗してネバーランドを造り、ビートルズの版権を買い集めた。攻撃欲とは言わぬまでも、あえて独占欲と支配欲をひけらかす行為ではあった。

 マイケルはまた、現実離れしたイメージをつくり上げることにも努めた。あのムーンウオークしかり、きらきらの手袋しかり。すべては「誰も私には触れられない」(その逆もしかり)というメッセージだった。

 マイケルは、飛び切り愛らしい少年エンターテイナーから最高に不気味なスーパースターへと変身した。72年に大ヒットした映画『ベン』の主題歌「ベンのテーマ」は、ネズミのためのラブソングだったが、その30年後には児童に対する性的虐待の容疑で逮捕されている。この事件は裁判にまで発展したが、05年に無罪が確定した(ある精神科医は当時、マイケルは小児性愛者ではなく心の発育が止まった大人だと断じている)。

 02年には生後数カ月の息子プリンス・マイケル2世を、滞在先のベルリンのホテルの窓から外に突き出して見せた。ファンが喜んだか驚いたかは別として、それはマイケルが自らの幼児性を捨て去るための儀礼的行為とも見えた。

 度重なる顔の整形と慢性的な皮膚のトラブル、そして大幅な体重減などのために、最近のマイケルは吸血鬼とミイラを合わせたような姿になっていた。まるで、『スリラー』のプロモーションビデオに登場した顔面蒼白で骸骨のようなゾンビみたいだ。

 あのビデオを、今あらためて見てみるといい。大勢で踊っているのがマイケルの分身で、中央に立つ本物のマイケルはまったく別人のように見える。現実離れ、ここに極まれりだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、6月以降の数回利下げ予想は妥当=エストニア

ワールド

男が焼身自殺か、トランプ氏公判のNY裁判所前

ワールド

IMF委、共同声明出せず 中東・ウクライナ巡り見解

ワールド

イスラエルがイランに攻撃か、規模限定的 イランは報
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負ける」と中国政府の公式見解に反する驚きの論考を英誌に寄稿

  • 4

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 5

    「韓国少子化のなぜ?」失業率2.7%、ジニ係数は0.32…

  • 6

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 7

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 8

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 9

    毎日どこで何してる? 首輪のカメラが記録した猫目…

  • 10

    便利なキャッシュレス社会で、忘れられていること

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人機やミサイルとイスラエルの「アイアンドーム」が乱れ飛んだ中東の夜間映像

  • 4

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 7

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 8

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    大半がクリミアから撤退か...衛星写真が示す、ロシア…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中