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2009.11.10

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日米首脳会談の憂鬱

湾岸危機にカネは出したが人は出さなかった日本。アメリカに芽生えた不信感はぬぐえるか

2009年11月10日(火)12時32分
ジェフ・コープランド

 わずか1年で状況は一変する。海部俊樹首相とジョージ・ブッシュ米大統領が前回カルフォルニア州で会談したのは、昨年3月。そのとき2人には、クウェートという小国のことなど念頭になかっただろう。まして、アメリカがその後中東で戦争に踏み切り、日本に戦費の相当部分を要求するとは、想像もできなかったはずだ。

 今週、日米の首脳は再びカルフォルニアで会談するが、2人を取り巻く世界情勢は大きく変化した。アメリカが昔日の超大国の面影をいくらか取り戻した一方で、日本は対外的な危機に対する政府の管理能力の限界を思い知らされた。

 海部とブッシュの前には難問が山積している。両首脳の頭が湾岸戦争でいっぱいの間に、さまざまな問題が噴出してきた。

 たとえば日本のコメ市場開放をめぐる論争の再燃。きっかけは、先月幕張メッセで開催された国際食品・飲料展で、展示品の米国産のコメが撤去されたこと。アメリカ側によれば、撤去に応じなければ逮捕すると警告されたという。

 また、アメリカの3大自動車メーカーの会長が最近、ブッシュと会談。近い将来、日本車が米市場の4割を占めるおそれがあるとブッシュに訴えた。

 一方、ソ連のミハイル・ゴルバチョフ大統領が今月訪日する。ゴルバチョフが携えてくると思われる北方領土問題に関する提案は、アジアにおける米ソの軍縮につながるかもしれない。

 日米首脳会談ではこのほか、南北朝鮮やカンボジヤ問題、さらに日本の対外援助を軍縮の推進に結びつけるというアメリカの提案についても、話し合われる可能性がある。

いらだちを隠せないアメリカ国民

 だが会談の真の目的は戦争の傷を癒やすことだ。湾岸危機に対する日本の対応から、相互に不信感が生まれている。日本が資金面での援助要請にすぐにはこたえず、戦場に非戦闘員さえ派遣しなかったことに、多くのアメリカ人はいらだっている。

 ビジネスウィーク誌が最近行った世論調査によると、アメリカ人の73 %は日本が「公正な責任分担を果たさなかった」と考えている。また64%が、その結果日本製品を購入する気がそがれたという。

 日本が応分の責務を果たさないという見方は、先週一段と強まった。円安による湾岸援助金の目減りを補填しないと日本が決定したためである。

 もちろん、日米関係が険悪化したことはこれまでもある。だが今回はその性格が異なる。同盟関係が支える基本的理解にアメリカは疑念を抱きはじめているのだ。果たして日米両国は共通の価値観で結ばれているのかというわけだ。

 日本企業と緊密な結びつきをもつ投資銀行ブラックストーン・グループの幹部ジェフリー・ガーテンは、先週ウォールストリート・ジャーナル紙に寄稿し、日本は国際秩序維持のために犠牲を払うことを望んでいないようだと述べている。

 ガット(関税貿易一般協定)の交渉(日本は農業政策に関していっさい譲歩していない)でも中東問題でも、日本は「他国のことは考えず、自国の経済繁栄を謳歌することだけを望んでいる」(ガーテンによればドイツも同様)というのだ。

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