最新記事

謎だらけの島でなくしたスリルが復活

海外ドラマ天国!

映画を超える黄金時代を迎えた
海外テレビドラマの世界へ

2009.07.17

ニューストピックス

謎だらけの島でなくしたスリルが復活

複雑すぎる設定で迷走した『LOST』、シーズン4で再び視聴者をクギづけにした秘策

2009年7月17日(金)12時35分
ラミン・セトゥデ(エンターテインメント担当)

謎多き島 ミステリアスな島で人間関係が錯綜する物語に、脚本家はどのような結末を用意するのか
©ABC STUDIOS

 『LOST』といえば、孤島のジャングルで次から次に迫りくる危機に立ち向かうサバイバルミステリー。だが最新のシーズンは一転して、ありふれた日常の光景から始まる。

 けたたましくサイレンを鳴らすパトカーの一団から逃げ回る白い車。すると画面は、そのカーチェイスをテレビで眺めながらオレンジジュースをコップに注ぐ男に移る。映し出された顔はジャック(マシュー・フォックス)だ。

 白い車を運転していた男は警官に逮捕されるが、こちらもおなじみの顔。ハーリー(ホルゲ・ガルシア)だ。

 どうなっちゃったの?  たしか2人とも仲間と島にいたはずなのに。いや、これはまったく新しい『LOST』の世界の始まりだ。第3シーズンなど忘れてしまえ。

 04年に始まった当初、『LOST』はいろいろな意味で型破りなドラマだった。展開も脚本も大作映画に引けを取らず、仕掛けられた大きな謎が視聴者を魅了した。

 無人島に不時着したオーシャニック航空815便の乗客は、しだいにその場所が異常なことに気づいていく。シロクマのような怪物に追いかけられたり、島自体に不思議な力があるように感じたり。しかも、島にいるのは自分たちだけではないらしい......。

 登場人物の素性もミステリアス。彼らの過去は一連のフラッシュバックによって、徐々にわかってくる。ジャックは父親の遺体をオーストラリアから運んでいた医師で、心優しくて頼りがいのあるケイト(エバンジェリン・リリー)はかつて銀行強盗だった。

脱出後の未来を見せる?

 ところが第3シーズンに入るころには、複雑すぎる設定が重荷に。謎は解明されず増える一方。新しいキャラクターが続々と投入され、古いメンバーは意味もなく殺される。視聴者は無関係なシーンの寄せ集めを見せられているような気分になったものだ。

 不評にさらされたクリエーターたちは二つの解決策を考え出した。まずシリーズを6シーズンで終えると決定。期限を決めれば、脚本家は内容に集中できる。

 同時にストーリーを展開させるうえで見事な手法を考え出した。それは、過去ではなく未来を見せる「フラッシュフォワード」。島を脱出した後の主要キャラクター6人の姿を見せるのだ。これによって「物語の構造がまったく変わった」と、クリエーターの一人であるデイモン・リンデロフは語った。「未来のパートには心動かされる要素がある。視聴者は、『なぜこうなったんだ』と、ストーリーに引きずり込まれる」

 脱出者の一人、ハーリーには過酷な現実が待ち受ける。島から解放されたのに、今度は精神病院入り。第4シーズンは、ハーリーが運転する車のように猛スピードで、これまでのドラマが試みたことのない新しい領域へと突き?進む(AXNにてシーズン1〜4連続放送中。シーズン5今夏、日本独占初放送決定)。視聴者は目をそらすことができない。

 今やファンも批評家も、かつてのような熱い口調で『LOST』について語っている(第4シーズンの初回の視聴者は1600万人。第3シーズンの最終回より300万人以上も多い)。

 米脚本家組合(WGA)のストライキが長引いて、通常より少ない14話構成になったことも幸いした。何事も起こらない「つなぎ」のエピソードは一つもなく、登場人物たちが島を脱出するフィナーレへとなだれ込む。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米貿易赤字、3月は0.1%減の694億ドル 輸出入

ワールド

ウクライナ戦争すぐに終結の公算小さい=米国家情報長

ワールド

ロシア、北朝鮮に石油精製品を輸出 制裁違反の規模か

ワールド

OPECプラス、減産延長の可能性 正式協議はまだ=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中