最新記事

テヘラン高官からオバマへの注文

イラン動乱の行方

改革派と保守派の対立は
シーア派国家をどう変えるのか

2009.06.26

ニューストピックス

テヘラン高官からオバマへの注文

テヘラン高官からオバマへの注文

2009年6月26日(金)12時39分
セリグ・ハリソン(米国際政策センター・アジア担当部長)

 仮にバラク・オバマ上院議員が秋の本選でアメリカ大統領となり、イランと前提条件なしに交渉するという選挙公約を果たすとしよう。イランはどう応じるだろうか。イランの有力者3人に聞いたところ、イラン側には前提条件がある。

 彼らによれば、アメリカは交渉のテーブルに着く前にイランに対する「敵視政策」を取り下げなければならない。3人が最も強調したのは、すでにオバマが公約に掲げている、イラク駐留米軍の完全撤退に向けたタイムテーブルを示すという条件。経済制裁の解除など他の条件はオバマの選挙公約にそぐわないし、ワシントンで問題になる。

 「(オバマの)就任前に交渉に入りたいという打診が来ている」と、イラン国会で強い影響力をもつ外交・安全保障委員長のアロオディン・ボルジェルディは言う。しかし「ボールはアメリカ側のコートにある」と、彼は強調する。「イランとの関係を悪化させたのはアメリカ。関係改善はその点を踏まえて進めるべきだ」

イラク撤退の姿勢を示せ

 7月19日にジュネーブで開かれたイランの核問題をめぐる協議には、イランとの直接対話を拒否してきたアメリカがニコラス・バーンズ国務次官を派遣。イランに対してウラン濃縮の停止を求めた。しかしイランは原則論に終止し、回答を示さなかった。

 協議に参加した6カ国はイランからの2週間以内の回答を求めているが、コンドリーザ・ライス米国務長官は、イランがウラン濃縮停止の方針を示さなければ、アメリカ単独の制裁強化に加え、「国連安全保障理事会で新たな制裁を検討することになる」と警告した。

 マフムード・アハマディネジャド大統領の腹心の一人でもあるボルジェルディは、「雰囲気を大きく変える」ためには、オバマはイランの政権転覆をねらうCIA(米中央情報局)の活動をやめさせ、79年のアメリカ大使館人質事件以来凍結されている米銀のイラン資産を返還し、金融制裁を解き、民間機売却を再開すべきだと言う。膨大な要求だが、ボルジェルディはイラクの撤退時期に加えてどれか一つがクリアされれば、対話を始められると示唆する。

 外務第一副大臣のアリレザ・シェイハタールも、イラクからの米軍の撤退計画の重要性を指摘する。「3カ月先、8カ月先、あるいはもっと先だとしても」、アメリカが徐々にイラクから手を引く「真摯な姿勢」を見せることが重要だと彼は言う。

 シェイハタールはアメリカが現在、イラクの空域を管理している事実を指摘。それがイラクのヌーリ・マリキ首相を「いらだたせている」と言う。「イラクは独自の空軍をもつべきだ。戦闘機を購入し、国内外の安全保障のために維持する能力もある」

ブッシュ以外なら誰でも

 それはイランにとって国防上の脅威ではないのだろうか。イラクが独立した民主政府であれば問題ないと、シェイハタールは言う。「イラクの絶対的多数はイランに友好的だからだ」

 オバマについて聞いたところ、保守系新聞「ケイハン」を率いるホセイン・シャリアトマダリは、「ジョージ・W・ブッシュ大統領が代わるなら誰でもいい」と語った。「しかしオバマが本物か、それともブッシュ同様シオニスト勢力に操られているかを見極める必要がある」

 3人とのインタビューから、イランはアメリカと折り合いをつけたいと考えてはいるが、前向きなそぶりは見せないだろうということがわかる。

 もしオバマが米軍の戦闘部隊をイラクから16カ月で撤退させ、空軍基地から爆撃機も引き揚げるという公約を貫けば、イランとの交渉は順調にいきそうだ。イランが影響力をもつイラク国内のシーア派民兵組織が米軍撤退を邪魔しないよう要求し、イラクのアルカイダ掃討への協力を求めることもできる。

 交渉を始めるにあたって、オバマはイランが求める重要なステップを踏まなければならない。イラン政権転覆をねらう勢力に対する、CIAや特殊部隊の支援の停止だ。クルド人の分離独立派やムジャヒディン・ハルク(イラクに拠点を置く亡命イラン人反政府勢力)がそれにあたる。こうした動きは公表されることがないので、オバマにとっての政治的コストは低い。

 ボルジェルディは、イランが平和目的にウランを濃縮する権利をアメリカが受け入れれば、残りの問題は交渉可能だと言う。「核兵器の開発が問題という点はわれわれも理解し、受け入れている」

 ブッシュ政権のイランに対する「政権転覆政策」を終わらせることは、実りのある核協議を進めるカギになるし、アメリカにとって受け入れ可能だ。しかしオバマ新大統領は、これまでイランに対する秘密工作に従事してきた国防総省やCIA、各情報機関の抵抗勢力に立ち向かうことができるだろうか。

 簡単ではないだろう。次期アメリカ大統領は、イランと同じくらい手ごわい敵とワシントンで対峙することになる。

[2008年8月 6日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米債市場の動き、FRBが利下げすべきとのシグナル=

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税コストで

ビジネス

米3月建設支出、0.5%減 ローン金利高騰や関税が

ワールド

ウォルツ米大統領補佐官が辞任へ=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    【徹底解説】次の教皇は誰に?...教皇選挙(コンクラ…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中