最新記事

福原成雄(庭園デザイナー)

世界が尊敬する
日本人 part2

文化と時代を超えたジャパニーズたち
最新版は7月1日発売号に掲載!

2009.06.29

ニューストピックス

福原成雄(庭園デザイナー)

日本庭園の美に恋をして

2009年6月29日(月)15時40分
コリン・ジョイス(東京)

 園芸の世界で最高の権威と伝統を誇るイギリスのチェルシー・フラワーショー。チェルシーの最優秀ガーデン賞は造園家にとって最高の栄誉とされる。福原成雄は01年にその栄誉に浴した。出品作のなかにはチャールズ皇太子の委嘱した庭もあったが、それらを制しての堂々たる受賞だった。

 もっとも福原の名を広めたのはこの賞だけではない。大阪芸術大学環境計画学科で教壇に立つかたわら、ガーデニングの本場イギリスをたびたび訪れ、日本庭園の「伝道師」として活躍している。

 イギリス人の日本庭園好きは今に始まったものではない。イングランド北部のタットン・パークをはじめ、日本庭園は100年も前からあった。ただし、残念ながらこうした初期の日本庭園には、東西の様式の奇妙な折衷や、中国式と日本の混同が見受けられる。

 庭づくりの背景にある自然観が理解されないまま、デザインの一部だけが採り入れられたケースもある。「赤い鳥居と赤い橋があれば日本庭園だと思われていた。本来は、自然の景観を生かすことが大切なのに。灯籠1つにもちゃんと役割がある」と、福原は語る。

 チェルシーに共同出品した「リアル・ジャパニーズ・ガーデン」は、日本の庭づくりの三様式である枯山水、露地、池泉式を合わせたもの(福原は枯山水を担当)。今は永久保存のためガーデ

造園業者への技術指導も

 福原の設計を形にしたイギリスの造園業者スティーブン・スワットンは、「この仕事をしたことを名誉に思う」と話す。「彼は日本庭園の伝統を伝えるだけではない。設計図に託した思想をきちんと具現化できる」

 材料の調達には苦労した。福原チームはこけむした石を求めてイギリス中を回った。植木はオランダから運ばせた。幸い今ではイギリスにも日本庭園に欠かせない地衣類を扱う園芸店がある。  

 ウィズリー・ガーデンやキュー・ガーデンの日本庭園を設計したのも福原だ。タットン・パークの日本庭園の修復も手がけた。修復にあたっては、日本の様式としては奇妙な配置もそのまま保存するよう依頼された。「迷わず引き受けた。(折衷様式も)造園の歴史の一コマなのだから」と、福原は言う。

 福原はガーデニング好きのイギリス人相手に講演やワークショップを行うほか、自分が設計した庭園を維持してもらうため現地の造園業者の技術指導も行っている。「何かを創造し、それを評価してもらい、自分のもつ知識を学びたい人に与えられる――こんなに幸せなことはない」と福原は言う。

 彼の設計した庭を散策することは、それ以上の幸せだろう。

[2006年10月18日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 10
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中