最新記事

スワーダ・アル・ムダファーラ(教育者)

世界が尊敬する日本人

国境と文化の壁を越えて輝く
天才・鬼才・異才

2009.04.08

ニューストピックス

スワーダ・アル・ムダファーラ(教育者)

オマーン人が慕う名物校長

2009年4月8日(水)18時10分
井口景子

 アラブ諸国では女性は家庭に閉じ込められ、虐げられている──アラビア半島南東端のオマーンで学校を経営するスワーダ・アル・ムダファーラ(旧日本名・森田美保子)を見れば、そんな誤ったステレオタイプは吹き飛ぶはずだ。

 スワーダは90年、幼稚園児から高校生まで500人が学ぶアザン・ビン・ケイス私立学校(ABQ)を首都マスカットに設立。不可能を可能にする行動力と情熱的な語り口で、人口260万人のオマーンでは誰もが知る名物校長だ。

 急速な近代化に合わせて学校制度を整えたため、暗記中心にならざるをえなかったオマーンの教育界に、彼女は独自の方針で新風を吹き込む。たとえば、アラビア語と英語のバイリンガル教育。ABQの生徒はAレベルという国際的な大学入学資格を受験し、大半が外国の大学に進学。コンピュータや会計の国際資格にも挑戦する。

 教育省の学力評価では、全国でトップ3にランクイン。当初はスワーダの方針を認めなかった教育省も、今ではバイリンガル教育や国際資格の取得を推奨している。

 もっとも、300ある私立校のなかでABQが抜群の人気を誇るのは、高い学力のためだけではない。毎朝、500人の生徒全員と握手し、声をかけるスワーダに子供たちは絶大な信頼を寄せる。校長室には、常に生徒が出入りして相談をもちかける。
 「子供の心に徹底的に寄り添うのが私の役割。わかってもらえると感じれば、どんな子も無限に伸びる」。実際、ABQではダウン症や自閉症の子も積極的に受け入れ、なかには大学に進むケースもある。

12億円の新校舎も完成

 東京で生まれ育ち、カルチャーセンターを主宰していた20代のシングルマザーが、初めてオマーンを訪れたのは79年。日本文化を紹介する使節団に参加し、その後も現地の婦人会に招かれて渡航を重ねる。やがて、オマーン人男性と再婚。イスラム教に改宗し、戸籍名もオマーン式に改めて、メードつきの裕福な生活が始まった。

 だが「幸せすぎてばかになりそう」な日々を送るうち、もち前のチャレンジ精神が頭をもたげる。日本で良質の教育を受けた自分にできるのは教育だ。障害児を支援するボランティアに取り組んだ時期もあったが、善意だけでは活動は続かないと痛感し、学校づくりへの思いがますます強まった。

 もちろん外国人が学校をつくるなど前代未聞。それでもギフトショップを開いて資金づくりに励み、小学校に入ってアラビア語を勉強しながら10年越しの夢を温めた。ようやく開校許可を得たABQも、初年度に集まったのは幼稚園児5人のみ。それが今は、12億円の新校舎を建てるまでに成長した。

 数年前に4度目の結婚をしたスワーダは、女性のロールモデルとしても知られる存在だ。人生相談に来る女性には、離婚女性を手厚く保護する法律について説明し、再出発を後押しする。「できることから一歩ずつ始めれば、開かない扉はない。チャレンジし続けることが、魅力的な人間でいる秘訣」

 そして今も、次のチャレンジに向けて準備を進めている。不登校児が通いたくなるような学校を日本につくるという夢だ。スワーダの行動力と情熱があれば、きっとユニークな学校が生まれるだろう。

[2006年10月18日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

存立危機事態巡る高市首相発言、従来の政府見解維持=

ビジネス

ECBの政策「良好な状態」=オランダ・アイルランド

ビジネス

米個人所得、年末商戦前にインフレが伸びを圧迫=調査

ビジネス

オランダ中銀総裁、EU予算の重点見直し提言 未来の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後悔しない人生後半のマネープラン
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 6
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 1
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中