コラム

「不思議の国アメリカ」の女王さまは民主主義がお嫌い!(パックン)

2020年12月05日(土)13時40分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

An Alice-in-Wonderland Democracy / (c) 2020 ROGERS-COUNTERPOINT.COM

<国家は選挙への信頼の上に成り立っているはずなのに、民主主義の首を切ろうとした「死刑執行人」は......>

ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』に登場するトランプ(ハートの女王)の口癖は Off with her head!「首をちょん切れ!」。今、不思議なわが国のトランプ(大統領)も激怒し、democracy(民主主義)に死刑を命じているようだ。

ドナルド・トランプは、大統領選挙の開票の途中で勝利を宣言し、集計の停止を求めた。そして「選挙不正」を理由に一部の票の無効化や再集計も求めた。その上、いくつかの州の知事や議会、選挙管理委員会に対し、集計結果を承認しないように圧力をかけた。しかも、説得するために激戦州の関係者をホワイトハウスに招いた。倫理的にグレーハウスだけど。

賢いやり方かもしれない。ジョー・バイデンとトランプの獲得票の差は600万以上で、一番競った激戦州でも1万票以上も差がある。バイデンを選んだ民意は変えられない。しかし、形式上、大統領を決定するのは選挙人。各州で選挙人の承認権を握る州議会の数人の行動だけを変えられれば「再選」への道が切り開ける。民主主義の首をちょん切れ!

しかし、大統領一人の力だけでそんなことはできない。executioner( 死刑執行人)となるGOP(Grand Old Party=共和党)がどうするのかが問題。風刺画では OK...I'll play along(いいよ、付き合ってやるよ)と言っているが、現実でも共和党の重鎮はほぼ全員がトランプの暴走劇を支えている。

意外にも、共和党の官僚や裁判官は冷静だ。トランプが指名した者も含む判事たちは、数十もの裁判で「選挙不正の証拠はない」とトランプ側の訴えを退けた。共和党の州務長官も不正はないと断言。トランプ指名のサイバーセキュリティーの担当高官も全ての不正を防止したという。つまり、トランプの「ふせい(不正)だ!」を「いや、ふせい(防い)だ!」と否定する。

でも、共和党の重鎮たちは選挙の結果を認めない。ポンペオ国務長官は「バイデン政権への移行に協力するか」と聞かれたら「トランプ政権は2期目に移行する」と切り返した。

それは冗談だったと、フォローする人もいる。風刺画の死刑執行人もあきれ顔だし、『不思議の国のアリス』の執行人も首を切るフリをしていただけだ。つまり、みんな暴君の機嫌を取るために形だけ付き合っている可能性はある。

でも、国家は選挙に対する信頼の上に成り立っているのだ。民主主義は、死刑のフリをするだけでも死にかねないと思う。もし生き残ったら、国民にその「殺人未遂の犯人」を覚えていてもらい、次の選挙で彼らの首を飛ばしてほしい。

【ポイント】
Trump's Willing Executioner...
トランプに「快く従う」死刑執行人...

<本誌2020年12月8日号掲載>

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プロフィール

ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

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