コラム

トランプが負けたら陰謀論者「Qアノン」が全米で蜂起するかも(パックン)

2020年10月10日(土)13時45分
ロブ・ロジャース(風刺漫画家)/パックン(コラムニスト、タレント)

When Conspiracy Reigns / (c) 2020 ROGERS-ANDREWS McMEEL SYNDICATION

<悪い高官たち「ディープステート」が国家を牛耳っているという陰謀論は、それと戦うトランプをヒーローとして崇める政治運動「Qアノン」へと発展>

2016年12月。自動小銃、拳銃、ナイフなどを持った男が首都ワシントンのピザ屋「コメット・ピンポン」に押し入った。彼は「ヒラリー・クリントン率いる闇組織がピザ屋を本拠に児童の性的人身売買を行っている」と信じていた。その活動を止めに入ったのだ。当然、普通のピザ屋さんだったわけだが、男はそれでも発砲。幸いけが人はいなかったが、壁、ドアやパソコンは重傷を負ったようだ。

この陰謀説や関連事件(そのピザ屋への放火もあった!)はまとめて「ピザゲート」と呼ばれる。2016年から広まり始め、大物ハリウッドセレブ、政府高官、政治家など大勢の権力者が児童の人身売買のほか、悪魔崇拝や人食いなどもやっていると主張する、大規模で超複雑な陰謀説に成長した。

陰謀説にはヒーローもいる。それがドナルド・トランプ大統領! 彼は悪い高官たちのディープステート(国家内国家)と戦い、その成敗を図っている。ほっと一安心!

陰謀説の普及を助長したのは、ハンドルネーム「Q」という人物。2017年10月からトランプと闇組織の戦いの内幕を「Qドロップ」と呼ばれる書き込みでネット掲示板に投稿し続けている。今や数十万人以上のフォロワーがいて、Qはanonymous(匿名)であることからこの運動はQ Anon(Qアノン)と呼ばれる。

面倒くさいことに、ドロップは暗号になっており、意味不明な文も多い。固有名詞は大体イニシャルだ。HRC=ヒラリー・ロダム・クリントン、TKG=卵かけご飯、など。Qの身分も謎だ。本人は国家機密を扱う最高認可のレベル「Q」を持っている政府上層部の関係者だと言う。その証拠として「間もなく大勢逮捕!」とか、「裏情報」を使い予言する。だが......。よく外れる。

でも暗号は便利なことに、そんなとき、Qが間違っているのではなく、解読が間違っていると解釈できる! つまり、陰謀説は無敵だ。そして、陰謀論者はその妄想をもって現実世界で投票する。怖いのは、ヒーローのトランプが負けた場合。それもディープステートの仕業だと思うだろう。そして選挙結果を受け入れないQアノンの信者が武装し街に出たら、アメリカ全土がコメット・ピンポン状態になるかも。

【ポイント】
I BELIEVE THE WORLD IS RUN BY A CABAL OF SATANIC PEDOPHILES
悪魔崇拝の小児性愛者の集団によって世界は支配されている、とオレは信じる

...AND I VOTE!
そしてそんなオレには投票権がある!

<本誌2020年10月13日号掲載>

プロフィール

パックンの風刺画コラム

<パックン(パトリック・ハーラン)>
1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『大統領の演説』(角川新書)。

パックン所属事務所公式サイト

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場=上昇、テクノロジー株の回復続く

ビジネス

NY外為市場=円上昇、155円台半ば 中国の米国債

ビジネス

再送-〔アングル〕自民圧勝でも円売り不発、「対話」

ワールド

バングラデシュ、米と貿易協定締結 繊維製品は一部が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 3
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近したイラン製ドローンを撃墜
  • 4
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 5
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    「二度と見せるな」と大炎上...女性の「密着レギンス…
  • 8
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 9
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 10
    【銘柄】なぜ?「サイゼリヤ」の株価が上場来高値...…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 3
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 4
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 9
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 10
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 8
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story